アカボシゴマダラ
(赤星胡麻斑蝶)

チョウ目  タテハチョウ科
前ばね長さ 35〜52mm
 観音崎公園・花の広場の片隅に生えている一本のクヌギには,夏になると,樹液を吸いにいろいろな昆虫が集まってくる。カブトムシ,コクワガタ,カナブン,ヒカゲチョウ,ルリタテハ等々,それと私が苦手とするスズメバチ。

 花の広場へ行くたびに,そのクヌギを訪問することにしているが,最近はどう猛なスズメバチが居ることが多く,恐る恐る近づくことにしている。今日はスズメバチがいないのを幸い,近づいて見ると,珍しくゴマダラチョウが樹液を吸っていた。
2008.8.8
 
 傍にはカナブンが数匹いたが,近づいた途端,クモの子を散らすように,あたふたと逃げてしまった。ところが,ゴマダラチョウは逃げる気配がない。少し離れて見ていると,羽を閉じて樹液を吸っているが,一歩近づくと,警戒しているのか?威嚇しているのか?羽を開閉する。余程お腹が空いているのか,一向に逃げようとしない。
 
 逃げないことをいいことに,抜き足差し足50cm位まで急接近。昆虫マニアの少年のように,胸をドキドキさせながら,デジカメを持つ手を恐る恐る伸ばし,約20cm位の至近距離から撮影することができた。それでも,一向に飛び去る気配がない。一心不乱に樹液を吸い続けるゴマダラチョウに感謝しつつその場をあとにした。
 帰宅後,パソコンに取り込んだ画像を見ながら,妙なことに気づいた。後翅の外縁に赤い斑紋がある。ゴマダラチョウに赤い斑紋があったっけ?慌てて我が家の昆虫図鑑で調べてみたが,そのような斑紋は見当たらない。

 更に,「ゴマダラチョウ」でウェブ検索,20件ほど開いてみたが,赤い斑紋のあるものは皆無。新種発見か?暑い中,喜び勇んで横須賀市立図書館へ。分厚い昆虫図鑑を広げ「ゴマダラチョウ」で検索したところ,ゴマダラチョウと並んで赤い斑紋のあるチョウが掲載されていた。チョウの名はアカボシゴマダラ。私が撮影したものとそっくりそのままだが,分布地域は奄美大島とあるだけで,その他の地名が記されていなかった。
白化・春型
  
 2週間ほど前からアカボシゴマダラの白化した春型を数多く見かけるようになった。これまで夏型は沢山見たが,春型を見た記憶はない。観音崎周辺でも相当繁殖しているようだ。夏型は後翅部に赤い斑紋があるが,春型は見あたらず,全体に白っぽく感じる。特にメスはオスに比べてより白っぽく,初めて見た時は,アカボシゴマダラとは別種と思ったくらい白かった。
2012.5.30

  2019.5.22
 

♀  2012.5.30
 

アカボシゴマダラ♀ / ゴマダラチョウ
余    談
  
 奄美大島のチョウが,なぜ観音崎に?これも地球温暖化の影響?ナガサキアゲハツマグロヒョウモンムラサキツバメのように,アカボシゴマダラも北上するチョウなのだろうか?今度は「アカボシゴマダラ」でウェブ検索,10件ほど拾い読みして,驚くべき事実を知った。

 アカボシゴマダラはベトナム北部から中国,台湾,朝鮮半島まで分布。奄美大島は分布の末端にある。奄美大島と台湾の個体群は一見して他の地域の個体とは斑紋が異なり,固有の亜種に分類される。日本には奄美大島とその周辺の島々だけに棲息する。

 ところが,1995年埼玉県に突如として出現。この埼玉での発生は一時的なもので終わったが,これに続く数年間には神奈川県を中心とする関東地方南部でも本種が多数発生・定着するようになり,毎年分布を拡大していることが報告されている。2006年には東京都内でも発生している。

 この個体群は,その外見上の特徴から,中国大陸産 に由来と推定されている。自然の分布域から飛び離れていることや,突如出現したことなどから昆虫マニアによる人為的な放蝶(ゲリラ放虫)の可能性が高いといわれている。

 気候風土が好適であったために急激に個体数が増加したと考えられており,市街地の公園などの人工的な環境に適応しているので,今後も分布が拡大していくと予想される。このように,典型的な外来生物であるために,もともと類似環境に生息するゴマダラチョウと生態的に競合するのではないかという危惧もある。


 5〜6年前から,県内外のチョウ愛好者の間では,アカボシゴマダラの話題でもちきりだったようだが,恥ずかしながら,私はこの事実を全く知らなかった。県内で発生したものは中国産で,奄美大島産とは異なる上に,西日本方面での発見例が一つもないことから,地球温暖化で北上したものとは考えられず,誰かがひそかに国内に持ち込み,飼育中の個体が逃げ出したか,あるいは故意に放したために発生したといわれている。

 観音崎とその周辺地域には,近年,タイワンリスアライグマ,ハクビシン等が出没,その被害が問題になっているが,アカボシゴマダラもそれらと同様,人間の身勝手がもたらしたもののようだ。美しいチョウの写真撮影に成功して喜んでいたが,喜んでばかりもいられない気がする。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』等から要旨引用
ゴマダラチョウとの共存?
 
 クヌギの若木でアカボシゴマダラとゴマダラチョウが,樹液を吸っていた。その数ざっと数えて10頭あまり。アカボシゴマダラとゴマダラチョウの割合はほぼ半々。身体の大きさはアカボシゴマダラがあきらかに大きいが,一見仲良く共存しているように見える。

 ところが,樹液を吸引するのに夢中になり,お互いがぶつかりそうに接近しすぎると,アカボシゴマダラが口吻をゴマダラチョウに向かって伸ばし威嚇する。ゴマダラチョウは後ずさりするか,時には飛び去ってしまう。このままアカボシゴマダラが増え続けると,生態的に競合する在来種のゴマダラチョウにとって脅威となることは明らかなようだ。
2011.7.24
 
 
2012.5.25 読売新聞朝刊・社会面から転載

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