観音崎
秋の七草

 秋の七草と言えば萬葉集にある山上憶良が詠んだ「萩の花尾花葛花瞿麦の花 女郎花また藤袴朝貌の花」の歌が有名で,これを現代の呼び名と対比すると下記の通りとなる。この歌に詠まれた七草が,観音崎には幾つ自生しているだろうか?そんな素朴な疑問から,観音崎の秋の七草探しを試みた。
2006.9.27
No. 萬葉時代 現  代
1. ハギ ハギ
2. 尾花 オバナ ススキ
3. クズ クズ
4. 瞿麦 ナデシコ 撫子 ナデシコ
5. 女郎花 オミナエシ 女郎花 オミナエシ
6. 藤袴 フジバカマ 藤袴 フジバカマ
7. 朝貌 アサガオ 桔梗 キキョウ
三浦半島 秋の七草巡り霊場
 
 いざ七草探しをしてみると,ハギ・ススキ・クズの3種類は,観音崎とその周辺地域に数多く自生しているので問題なかったが,ナデシコ・オミナエシ・フジバカマ・キキョウの4種類はいずれも自生していないことが判明。やむを得ずそれぞれの代役探しをすることにした。
1.ハギ(ヤマハギ)
  

2004.6.27
2.ススキ
  

2005.11.16
3.ク ズ
  

2006.9.10
4.ナデシコ(ハマナデシコ)
   
 ナデシコは別名を「ヤマトナデシコ」「カワラナデシコ」と呼ばれるが,残念ながら観音崎では見かけたことがない。代わりに同じナデシコ科のハマナデシコを採用することにした。

 ハマナデシコは観音崎で一時絶滅しかけたが,観音崎自然博物館とボランティアが保護・増殖活動に取り組み,今では数ヶ所でその花を楽しむことができるようになった。 

自庭のナデシコ  2006.6.13

ハマナデシコ  2006.8.6
5.オミナエシ(セイタカアワダチソウ
 
 オミナエシについては正直のところ困ってしまった。観音崎はおろかその周辺の住宅地でもお目にかかったことがない。 オミナエシの代役候補として,同じオミナエシ科のツルカノコソウも考えられるが,その花は白く,春先に咲くので代役としては失格とした。失格としたもののそれ以外思い浮かばないので,オミナエシ科に拘らず範囲を広げて代役を探すことにした。

 オミナエシ同様,秋に黄色い花を咲かせる植物としては,セイタカアワダチソウ・ヤクシソウ・アキノキリンソウ・アキノノゲシ等が思い浮かぶが,いずれもキク科の植物で「そっくりさん」とするには少々無理があるような気がする。しかしながら,秋の七草の一つが欠けてしまうのも残念なので,異論もあるかと思われるが,セイタカアワダチソウに白羽の矢を立てることにした。

 セイタカアワダチソウはブタクサと混同され,花粉症の元凶として毛嫌いされるようだが,それは濡れ衣で,その点気の毒な植物である。観音崎では9月下旬頃から咲き始めるが,咲き始めの1〜2週間が特に美しい。それを過ぎると背が高いこともあって少々鬱陶しい存在になってしまうのが残念である。
  

清雲寺のオミナエシ  2006.9.27

セイタカアワダチソウ  2004.9.2  
6.フジバカマ(ヒヨドリバナ
  
 フジバカマも残念ながら観音崎では見かけない。代わりにフジバカマと同じキク科で,葉の形は異なっているものの,管状花が集まった頭花がそっくりなヒヨドリバナを採用してみた。

 観音崎ではヒヨドリバナの群落を数ヶ所で確認しているが,最大の群落地であった戦没船員の碑から青少年の村へ下る途中の群落は,頻繁な草刈り作業により消滅してしまった。現在では噴水広場から戦没船員の碑へ登る坂道の途中右側にある群落が最大となっている。
 

自庭のフジバカマ(白)  2005.10.28

自庭のフジバカマ(薄紫)  2005.11.4
 

ヒヨドリバナ  2006.8.23
7.キキョウ(ツリガネニンジン)
 
 キキヨウは観音崎周辺の住宅地の庭で時折見かけるが,観音崎公園内には残念ながら自生していない。代わりに同じキキョウ科のツリガネニンジンを採用してみたが,思いの外,雰囲気が似ているのに驚いた。

 ツリガネニンジンの群落はうみの子とりでにあり,比較的人目に触れやすい場所にあるにも関わらず,その数を増やしつつあるように思われ嬉しい限りだ。保護用のロープが三角形に張ってあるのでそれと判るが,盗掘などにあわないよう見守っていきたい。
 

走水神社近くの庭のキキョウ  2005.9.30

ツリガネニンジン  2005.10.23
三浦半島 秋の七草寺社巡り霊場
   
 オミナエシについてあれこれ調べている過程で,横須賀に「女郎花の寺」と呼ばれるお寺さんがあることを思い出した。横横道路の衣笠インターチェンジ近くの大矢部にあるお寺さんで,昨年だったか一昨年だったか,読売新聞横須賀版にそのことが掲載された記憶がある。15〜6年前「三浦観音札所めぐり」をした時,訪れたお寺さんだったので頭の片隅に記憶が残っていたようだ。

 おぼろげな記憶を頼りに行ってみると,意外と簡単に辿り着くことができた。お寺さんの名前は「清雲寺」,山門を入ると直ぐに黄色いオミナエシの花が目に飛び込んできた。洋花のような華やかさはないが,萬葉の時代から愛されてきた花だけに,どこか落ち着いた佇まいがある。

 セイタカアワダチソウを西洋のご婦人に例えれば,オミナエシは戦前の古典的な日本のご婦人に似た趣がある。黄色という自己主張の強い色にもかかわらず,どこか控えめな感じが好もしい。 
2006.9.27
  
 数枚の写真を撮った後,寺務所入口に掲げられた看板の一つに「秋の七草 第一番 女郎花の寺 清雲寺」とあるのに気づいた。第一番とあるからには二番から七番まであるに違いない。

 看板の横に「寺用の方は呼鈴を押して下さい」とあるのに甘えて呼び鈴を押すと,品の良い年配の奥さんが現れた。私は単刀直入に「秋の七草の二番から七番のお寺さんを知りたいのですが,パンフレットでもありましたら頂けますか?」と切り出した。

 部屋へ戻られた奥さんは,暫くして「良かったですね!一枚だけ残っていました。」とパンフレットを差し出した。パンフレットには七ヶ所の寺の地図とそれぞれの花の紹介,見頃が書かれていた。

 帰宅後,パンフレットを見直し「三浦半島 秋の七草巡り霊場」と題するサイトがあることを知り,早速アクセスしたところパンフレットより詳しい情報を得ることができた。「秋の七草寺社巡り霊場」の受付期間は毎年9月1日〜10月20日まで。その期間中は各寺でその寺の花に因んだご朱印が頂けるようだ。 

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