クサノオウ
(草の王・瘡の王・草の黄)

ケシ科 越年草
花 期 3〜5月
草 丈 30〜40cm
有 毒 茎・葉

 観音崎京急ホテル方面から観音崎公園の三軒谷園地方面へ通じる横須賀美術館横の道を歩いていると,頑丈なフェンスの金網越しに黄色い花が沢山咲いているのが見えた。クサノオウだった。

 この辺りは以前,クサノオウの他にホタルブクロウラシマソウなどの群落があり,スイカズラやサネカズラなどのつる植物も生い茂り,数少なくなった自生のウツギも生えている私の好きな場所の一つだった。

 一昨年,美術館建設工事開始と同時にこの付近は閉鎖され,二年間ほど立ち入りができなかったが,ようやく建設工事も終了。4月28日(土)にはオープンされる運びとなり,最近この付近への立ち入りも自由にできるようになった。

 久し振りにこの道を歩いて驚いたのは,道幅も広く立派に舗装され,道路際には危険防止の頑丈なフェンスが設置されていることだった。道路沿いの野草類は綺麗に刈り払われ,様相が一変していた。
2007.4.9
 大きな環境の変化の下で,クサノオウは生き延びていたのだ。周辺に他の野草類が少ない分,以前よりもノビノビしているようにも見える。余程生命力の強い植物のようだ。ツボミや茎や葉には,うぶ毛のような毛が生えていて,ケシ科特有の雰囲気がある。
 花はGWくらいまでが見頃。5月の中旬頃になると花はまばらになり,細長い果実が目立つようになる。

2006.5.12

2006.5.12
余   談
  
 最近は動植物の名前等をカタカナで表記することが多くなった。私もインターネットでウエブ検索する時は,ほとんどカタカナですませている。便利な反面,漢字に比べ名前の由来等が分かりにくい一面もある。

 そこで私はカタカナと共に漢字を並記することを心がけているが,これが意外と難しい。クサノオウについて,愛用の講談社「日本語大辞典」で調べると【草の王】ケシ科の越年草。茎に黄色の乳液を含む。夏に,黄花を開く。果実は細い円柱形。有毒だが,鎮静作用があり薬用。道ばたや林のまわりにはえる。とあったが,名前の由来が明らかでない。

 【草の王】とはずいぶんと立派な名前をつけられたものだが,花や茎・葉の外見は“王”と呼ばれるほどのものではない。何故,草の王なのだろう?古本屋で買い求めた野草図鑑や百科事典,更には“クサノオウ”でウエブ検索してあれこれ調べ手見たが,【草の王】【瘡の王】【草の黄】の三つが入り乱れて諸説紛々。そのどれもがもっともらしい。要約してご紹介すると……

 【草の王】…鎮静や鎮痛,皮膚病全般に薬効が大きい薬草の王様と言う意味で。
 
【瘡の王】…瘡(くさ)を治す薬効があることから。
 【草の黄】…茎を折ると黄色い汁を出すことから。

 因みに,瘡(くさ)とは「日本語大辞典」によれば,@皮膚病の総称。できもの。本来は,きずあとのできもの。かさ。A湿疹。B胎毒(幼児の頭・顔などにできる種々の皮膚病の俗称。)C梅毒の俗称。とある。

 クサノオウがいつの時代に命名されたのか定かではないが,江戸時代あるいはそれ以前に名づけられたのだろう。その時代,庶民の栄養や衛生状態は現代に比べ貧弱で,皮膚病に悩まされていたと推定される。その皮膚病全般に薬効があるクサノオウが,その時代の人々に【草の王】または【瘡の王】と崇められていたとしても不思議ではない。その点【草の黄】は単純明快だが,説得力に欠けるような気がする。

 蛇足となるが,クサノオウに薬効があるからといって,素人療法は危険である。クサノオウは全草毒草で,茎や葉に特に毒が多く,誤って飲むと嘔吐・下痢・昏睡・呼吸麻痺・手足のしびれ等を引き起こし,死亡することもあると言うから要注意!である。

 「酒は百薬の長」と言われるが,飲み過ぎればこれも毒になる。毒にならない程度にほどほどに嗜むことにしよう!我と我が身に言い聞かせている昨今である。

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