横須賀鴨居・郷土芸能
とっぴきぴーおどり

保存会解散!?
 
 横須賀鴨居の「脇方」には,文化・文政の昔から伝わる「とっぴきぴーおどり」と呼ばれる郷土芸能があった。一時期中断されていたが,昭和48年に復活し,保存会も設立され,脇方の人たちによって再び伝承されてきた。

 鴨居八幡神社の夏祭りに,神社前の浜で演じられる「とっぴきぴーおどり」を,私も何回か見物したが,素朴でユーモラスな踊りだったと記憶している。ところがここ数年,この踊りを見たことがないので,地元の人にお尋ねしたところ,後継者難の為,5〜6年前に保存会も解散してしまったとのことであった。
2006.7.23
 
鴨居・八幡神社境内にある「とっぴきぴーおどり」の案内板
  
 横須賀市指定民俗文化財
仮面里神楽とっぴきぴーおどり
昭和49年6月1日指定

 今からおよそ150年の昔,文化・文政の頃から半農半漁の鴨居村の「脇方」に伝わっている郷土芸能である。

 このおどりは,すべて里神楽のお面を用い,囃子のリズムに合わせておどり,セリフはなく全くの無言で,身振り手振りでその情景をこまかに表現するもので,磯の香り土の匂いの高い簡素でしかも素朴さがにじみ出てくる。

 昔から,里人たちが須賀神社(現在は八幡神社に合祀)に,大漁満足・五穀豊穣・海上安全等を祈念する為に奉納したもので,二十五座神楽の俗脱したものと思われる。

 「獅子退治」「狐とり」「餅つき」「鯛つり」が伝承されているが,どれも「ひょっとこ」「ばか」が主役を演じ,「えびす」「おかめ」「狩人」「狐」「鬼」が助演して祭囃子のとっぴきぴーのリズムに合わせて踊られる。
  平成4年3月
横須賀市教育委員会
(注)後継者難により保存会が解散した為,2001年横須賀市指定民俗文化財の指定から残念ながら外されました。
紙芝居
 
 伝統ある横須賀の郷土芸能の一つが,いつのまにか消えてしまったことにショックをうけ,微力ながら,なんとかならないものかと思い巡らせていたところ,本サイトに「昔の遊び」「昔の商い」を掲載していただいている藤井俊二さんが「とっぴきぴーおどり」を題材に油絵を描いたことがあるのを知った。

 藤井さんにお話をうかがったところ,藤井さんは以前からこの踊りに興味を持ち,写真を撮ったり,10数枚の油絵を描き市の美術展に出品したこともあるとのことであった。踊りのストーリーも概略憶えていて,水彩画で紙芝居風に再現することができるとのこと。願わくば,地元の人々によってこの踊りが復活することが一番望ましいが,先ずは水彩画でこの踊りのコミカルな魅力の一端を再現,ご紹介することにした。

 尚,ストーリーについては藤井さんの記憶を基にしましたが,一部記憶が定かでない部分もあり,元鴨居小学校の小川義一先生のサイト「義一のページ」「鴨居トッピキピー踊り」を参考にさせていただきました。
 

「とっぴきぴーおどり」を題材にした油絵
水彩画・原文 藤井 俊二
編集・写真 kamosuzu


目  次
鯛 つ り
狐 と り
餅 つ き
獅子退治


藤井俊二氏の作品が「公募展横須賀」入選!





鯛 つ り
  
 横笛・大小の太鼓・鉦のお囃子が鳴り出すと,釣り竿を肩にかついだ恵比寿さまが,ツルハシをかついだヒョットコとビクを抱えたバカを従えて登場します。二人は道化よろしく,手を水平に,首をフラフラさせながら,10畳ほどのゴザの上で,くるくる回りおどけて観客を笑わせます。
  
  
 恵比寿さまは磯に腰をおろし,二人に餌を採るように命じると,ヒョットコはツルハシでエサ掘りにかかります。ところが,はねた石のかけらがバカの目に入り,バカがあわてて痛そうに目を押さえると,ヒョットコは心配そうにバカの顔を覗き込み,目に入った石をとってやります。
 
  
 恵比寿さまが竿を肩に,二人を従えいざ鯛つりへ!恵比寿さまが磯の岩に座って釣を始めますが,なかなか当たりがきません。ヒョットコとバカが,おかしいな〜?という仕草をします。すると,突然当たりがきて,恵比寿さまが竿をあげると………なんとワラゾウリがかかってきました。 
  
 
 餌を取り換え,ヨシ今度こそは!再び釣を始めると,グッとかなりの手応え。弓なりにしなった竿を重そうにあげると,なんと大ダコがかかっていました。大ダコは怒ってヒョットコとバカに襲いかかりからみつきます。大ダコの逆襲に二人は悪戦苦闘しますが,恵比寿さまが大ダコの頭を一打ちすると,大ダコはやっとおとなしくなりました。
   
  
 大ダコを振り払い,エサを鯛の大好物エビに取り換え待つことしばし,やがてググッと大きな手応え。恵比寿さまはあわてて竿を前後左右に動かし,釣り上げようとしますが,あまりにも大物の為,簡単には上がりません。さすがの恵比寿さまも大興奮,それを見てヒョットコとバカは大喜びです。

 二人はあわてて海に飛び込み,夢中になって大鯛を捕まえます。色鮮やかな大鯛を釣り針から外し,恵比寿さまに捧げると,恵比寿さまは扇子を広げて,満足げに退場します。ヤッター!メデタシ,メデタシの一幕でした。
   
油彩画
 





狐 と り
 
 普段,森の奥に棲んでいる白狐が,気持ちの良い天気に誘われ,野に出て浮かれ踊っています。やがて踊り疲れた白狐は,暖かいヤブ陰で昼寝をしています。
  
  
 そこへヒョットコとバカが連れ立って野良仕事に出かける途中通りかかり,バカがヤブ陰で気持ちよく昼寝している白狐を見つけ,鍬の先でイタズラをします。昼寝の邪魔をされた白狐はおおいに怒りますが,この場はひとまず退散します。 
   
  
 ようやく着いた丘の上の畑は眺めが良く,早速,二人は野良仕事に取りかかりますが,きびきびと働き者のヒョットコに比べ,バカはのろまで怠けがちです。それでも何とか予定の作業を終わり,二人は家路につきます。
   
  
 家へ帰る途中,昼寝の邪魔をされた白狐が現れ,のろまなためヒョトッコから遅れたバカに近づき,まんまと化かしてしまいます。バカは白狐の言うがままにいろいろな仕事をさせられ,フラフラと辺りをさまよいます。
   
  
 家に帰ったヒョットコは,バカがいないことにようやく気づき,引き返して探しに行くと,なんとも締まらない顔をして歩いているバカを見つけます。どうも様子が変なので大声で一喝すると,バカがようやく我に返り,白狐にバカされたことを話します。
   
  
 話を聞いたヒョットコは,白狐の昼寝の邪魔をしたバカが悪いとは言いながら,人間をたぶらかすとは不届き千万と,白狐をこらしめるため好物の「油揚げ」を使ったワナを仕掛ける作戦を考えます。
   
 
 白狐が現れそうな場所に二人がワナを仕掛けると,油揚げの匂いに誘われて白狐が現れるのですが,利口な白狐は用心深くなかなか捕まりません。
   
 
 再三失敗を繰り返し,それでも辛抱強く粘った二人は,ようやく白狐を捕まえます。ヤッター!メデタシ,メデタシの一幕でした。
   
当時の写真
 

1994.7.31





餅つき
 
 今日は暮れの雲一つない餅つき日和。ヒョットコが大きな臼を抱え,その後からオカメが湯気の立つせいろを抱え,しんがりにバカが杵をかついで登場。
   
 
 いよいよ餅つきの始まりです。ヒョットコが杵を打ち下ろし,オカメが手返し,二人の息はピッタリです。バカは座り込んでもっぱら見物役。途中バカが横から手を出し,餅をつまみ食い。
   
 
 やがて餅をほおばりすぎたバカが,餅をノドに詰まらせて目を白黒。気づいたヒョットコがバカの背中をさすったり叩いたりして,やっとこノドに詰まった餅がとれました。
   
 
 一騒動の後,餅つきを再開。その餅がつき上がる頃,突然,青鬼が出現。驚いて腰を抜かしたバカを,ヒョットコとオカメが引きずるようにして逃げ出します。青鬼はあたりに誰もいなくなったのを幸い,つき上がったばかりの餅を臼ごと抱えて持ち去ります。
   
  
 あきらめきれないヒョットコは,村一番の猟師に頼み鬼退治へ出かけます。先頭はヒョットコ,続いて猟師,しんがりはおっかなびっくりのバカ。しばらくして,臼を小脇に抱えた青鬼を発見。猟師が狙いをつけてドンと一発。玉は見事に命中。ヤッター!メデタシ,メデタシの一幕でした。
   
当時の写真
  

1994.7.31





獅子退治
 
 真理に背く教えを説く者を外道と呼び,その顔には邪悪の相があると言われています。その外道さんが自分の宗教を広めるために村を歩くときは,いつも御幣と扇子を持ち,ギョロリとした目で,人の心を見透かしているように振る舞うので,村人からは気味の悪い人と恐れられていました。
   
  
 その外道さんが,いつものように商売道具の御幣と扇子を持って村に説教に出かけた帰り道,道端の茂みに,大きな獅子が昼寝をしているのを見つけ,ビックリ仰天します。 
   
 
 外道さん,そのままそっと立ち去ればよいものを,日頃,村人たちが自分の宗教を恐れ敬まい見ていると思うと,コソコソ逃げ帰ることもできず,よせばいいのに「この大獅子を生け捕りにして村人を驚かせてやろう。」と考えます。
   
  
 外道さんの獅子退治が始まりますが,眠っているとはいえ相手は大獅子です。全身の勇気を奮い起こし,全神経を集中して獅子に立ち向かいますが,結局,眠っていた獅子を起こしてしまい,ついに頭から食われてしまいました。クワバラ クワバラの一幕でした。
   
当時の写真
   

1997.7.27
復活の動き!
 
 鴨居・脇方町内に伝わる郷土芸能「とっぴきぴーおどり」に復活の動きがあるようだ。浦賀行政センター2009年2月1日発行の「浦賀TODAY」がその兆しを伝えている。
 
復活?余談
 
 2010.7.28このページをご覧になった,鴨居・脇方町内在住の船頭さんから,掲示板に下記コメントを頂戴した。

 「初めて書き込み致します。宜しくお願いします。前から拝見させて頂いてますが,気に成る事が一つありまして,書かせて頂きます。

 先日行われた,とっぴきぴー踊りの事でもそうですが,再開とか,復活とか色々の方が言われていますが,けして踊りが絶えてしまった訳ではありません。

 保存会は解散しましたが,もともとは脇方町内の物であり,踊り自体は無く成っていません。後継者もちゃんと育てています。踊り手の最年少では16歳の子供達,太鼓の叩き手では12歳の子供の指導もしています。

 以前は,横須賀市指定無形民俗文化財に指定されていましたが,色々と制約があり,これをカバーする事が大変であった為に,指定解除させて頂きましたが,この頃から=踊り解散,見たいな考えが独り歩きしている様な気がします。

 ダラダラと長くなりましたが,とっぴきぴー踊りが出来ない状態には成っていません。全ての演目が,今の所はちゃんと受け継がれています。」



 事実とすれば大変嬉しい話なので,一度練習を拝見したいとお願いしたところ,下記ご返事を頂戴した。

 「練習日についてですが,基本的には決まっていません。祭礼一か月前より,祭礼準備として町内会館で,神輿磨き・太鼓練習などの合間,面子が揃った時に,一つやるか?的に練習?したりしています。(練習しない年もあります)

 40代が1組,30代が3組,10代が1組,踊り手の人数は揃って居ます。しかしながら,仕事などの理由で,面子がなかなか揃わないと言う事も事実です。練習と言っても,基本的に踊り手はかなりの時間,子供の頃から練習していますので,おさらい程度で出来ます。

 個人的には,とっぴきぴー踊りはお笑い踊り,皆さん(特にお年寄り)が大笑い出来ればそれで良し!アドリブ,アクシデント大いにありと思って居す。来年の話はわかりませんが,気長に待って頂ければ,祭礼の時に踊る事もあると思います。」



 その他,「とっぴきぴーおどり」に関する私の疑問点や提案について,率直なご返事をいただいたので幾つかご紹介したい。

☆横須賀市指定無形民俗文化財に指定されていた時の制約?
 「これについては,詳しく解りませんが,会合・公演日などの半強制的な日取りに,踊り手の休みが取れないなどあった見たいです。特に,太鼓叩き手,踊り手を見ますと,自営業の方が多く,皆さんバラバラな休みだったりしていて,厳しかった事が一番の要因です。」

☆保存会解散後,今回が初めての公演かと思いましたが?
 「正確には覚えて居ませんが,10年位前に今回同様,脇方の浜で餅つき・鯛釣りを踊りました。2年前には,踊る話は出ていましたが,時間の関係上中止になりました。」

☆踊り手の人数は40代が1組,30代が3組,10代が1組とのこと,年代としてはお若い方が多いので心強いのですが,50〜70代の人達はどうしたのでしょうか?

 「この事に関しても詳しくは解りませんが,戦後の復活の時に現役で頑張って来た方々は,既に大半が他界してしまっています。70以上ですね。現役で踊っていた頃は,後継者の事などは,頭に無かったのだと思います。その後に年を取られて,次の世代に教え始たのでは,ないかと思います。」

☆踊り手のメンバーに女性の姿が見られませんが,女の子をメンバーに加えることはできないのでしょうか?

 「私が言うのも可笑しいですが,最近は少しづつ変わって来ましたが,基本的には,昔ながらの事を引き継いで,祭礼を遂行する事を行っています。

 16歳で若衆に入り,各1段〜29段を経て会計,下,中,33歳で若衆頭で若衆を卒業と,役割があり,こうした事は大昔から引き継がれています。若衆頭が毎年代わって行くのも,鴨居では脇方だけに成ってしまっているはずです。

 しかし,時代の流れ,若衆の減少などで,最近では女性の方も神輿を担いだり,太鼓を叩いたりする様に成りましたが,それこそ数年前までは,嫌な顔をする方も多かったのです。踊りに関してはまだ,叩き手のみの参加にしか至ってません。」


☆結びとして
 「鴨居連合町内の会合などで,昔から何度となく踊りの事を聞かれると言う話は耳にしていますが,こちら側から,意見の大半は,保存会が解散しただけで,踊りは出来るのに何で騒ぐのだろう?個人的の意見では,踊りも祭りごとの一つ,神輿を担ぐ的な考えです。上手く表現出来ませんが,たまたま脇方には,踊りもあるだけ,継承者がいる内は,別に外に出さなくてもと思います。

 以前,保存会の方々などは,祭り当日は踊りの準備のみの役割で,他の準備(海上渡御の舞台準備,神輿,乗船者の確認)などは若衆がやっていたのですが,年々若衆の減少で準備が時間的にも厳しく成っています。こんな感じの事位しかわかりませんが、長い目で見ていてもらえればと思っています。」
復活?
  
 鴨居・八幡神社に合祀されている須賀神社の夏祭り・宵宮の7月24日(土)夕方,思いがけない吉報が入った。25日(日)12時から,鴨居・脇方の浜で「とっぴきぴーおどり」が演じられるという。昨年,浦賀TODAY2月号で復活の動きがあると報じられたが,その後,何の音沙汰もなかったので,突然の朗報に,夏休みで遊びに来た幼い孫達の相手は家内にまかせ,いそいそと脇方の浜へ出かけた。

 おどりの舞台は,浜の空き地に敷きつめられたゴザの上。楽屋もなければ客席もない。見物人から舞台裏は全て丸見え。舞台の背景は鴨居港。なんともオープンで,素朴な里神楽の雰囲気が辺りに漂っている。今回はあくまでも試験的なもので,ほとんどPRらしきことはしなかったようだが,それでも100名を超える見物人が集まっていた。
2010.7.25
 約10年ぶりに復活したこの日の演目は「餅つき」「鯛つり」。笛・太鼓・鉦によるお囃子に合わせ,パントマイムで演じられる素朴でユーモラスな踊りは,どこか懐かしく,遠い昔へタイムスリップしたような気分になった。

 今回は試験的なものだったので,PRをしなかったこともあってか,見物人に子ども達の姿が少なかったが,次回はぜひ子ども達へも呼びかけて欲しい。その中から,この伝統芸能の良き後継者が現れることを期待したい。
餅つき
鯛つり
  
 
 漏れ聞くところによると,この日の踊りはあくまでも試験的なもので,保存会が復活したわけではないらしい。当面は様子を見ながら,完全復活への道を模索するようだ。保存会が解散してから約10年過ぎたが,今ならば,当時の関係者も高齢化したとは言いながら,ご存命の方もいらっしゃるようなので心強い。保存会が完全復活するのが待ち遠しい。
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