帆船 クアウテモック
(CUAUHTEMOC)

船   籍 メキシコ
建   造 1981年
排水トン数 1,800トン
全   長 90.5m
帆装形式 3本マスト・バーク
所   属 メキシコ海軍
 2009年5月26日 鴨居港の防波堤で釣りをしていると,ドカーン,ドカーンと大きな礼砲の音が聞こえてきた。この音は,海上自衛隊 観音崎警備所の礼砲台から発射する空砲で,友好国の軍艦が東京湾に入港する時に実施される。礼砲は軍艦の場合21発,5秒間隔で発射される。この日は予行演習のようだった。

 何処の国の軍艦が入ってくるのだろうか?帰宅後,ネットであれこれ検索して,メキシコ海軍の練習帆船「クアウテモック」が,日本・メキシコ友好400周年,横浜開港150周年記念イベントの一環として,翌27日,横浜港に初入港することが判った。

 27日の何時頃,観音崎沖を通過するのだろうか?東京湾海上交通センターの「大型船入航予定情報」は,総トン数1万トン以上の船舶が対象なので,残念ながら載っていない。横浜港入港は午前10時,8時頃に観音崎へ行けば写真が撮れる筈と,勝手に決め込んだ。

 27日午前7時10分頃,顔を洗っていると,ドカーン,ドカーンと礼砲の音が響いてきた。慌てて食事は後回しにして,バイクに飛び乗り観音崎へ向かった。7時30分頃,観音崎園地に到着。沖合を見ると,既に観音崎沖を通過,第二海堡付近に「クアウテモック」らしき帆船の姿があった。観音崎警備所へ通過時刻を電話で確認すれば良かったと思ったが,後の祭りである。
 
 
 横浜港に入港した「クアウテモック」は新港ふ頭に接岸され,28から6月5日までの9日間一般公開された。本船は,豚インフルエンザの最初の患者が確認される前,今年2月にメキシコを出航。当初は,5月下旬に大阪港に入り一般公開後,6月1日に横浜港に入港。2日〜5日の4日間一般公開される予定だった。

 ところが,大阪で豚インフルエンザの感染が広まったため,大阪市から「大勢の見学者が乗船すると,乗組員に感染する可能性もある。」と本船の一般公開を見合わせる要請があり,横浜に直行したため,横浜での一般公開の期間が9日間になったと言う。

 なんとも皮肉な巡り合わせだが,お陰で見学日の選択肢が多くなり,結局,見学者が少ないと思われる月曜日の6月1日,横浜・新港ふ頭へ出かけた。予想は的中,アルゼンチン海軍の練習帆船リベルターの時のような長蛇の列はなく,行列の嫌いな私にはありがたかった。
  
 
 
 
 乗船近くになって,本船の舳先についたフィギュアヘッドと呼ばれる船首像がインディアンのような姿の男性であることに気づいた。これまで見た帆船のフィギュアヘッドは女神像がほとんどだったのに何故?傍にいた係員に尋ねたところ,疑問は直ぐに氷解した。彼こそ船名の「クアウテモック」皇帝だという。

 クアウテモック(Cuauhtemoc,1495年頃〜1525年)はアステカ帝国11代王。名の意味は,「急降下する鷲」。アステカ人はモクテマス2世のあとに新王クィトラワクを選んだが,スペイン軍が持ち込んだ天然痘が蔓延し,在位わずか80日でクイトラワックは死亡し,25歳のクアウテモックを王に推戴した。

 1521年,エルナン・コルテスがテノティトランを包囲すると3ヶ月の攻防戦に耐えて勇敢に立ち向かったが,8月13日,脱出を試みる途中にスペイン軍に捕らえられて降伏しアステカは滅んだ。クアウテモックはコルテスの短刀を指さして自分を殺すように言ったが,コルテスは彼を殺さず,勇者として手厚くもてなした。しかしそれは始めのうちだけで,黄金の場所をつきとめるためにコルテスは彼を拷問にかけた。

 1525年10月,反乱を企てたとの疑いによりクアウテモックはコルテスによって絞首刑に処された。現在のメキシコでは国民的英雄であり,メキシコシティには彼の銅像が建っている。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
 
 
 本船は1981年スペインの造船所で建造され,今年で船齢28歳。人間で言えば高齢者の部類に入るが,手入れが行き届いているせいか,船内は明るく美しい。見学者の入口付近で,それほど汚れの目立たない船体を,楽しげに白ペンキで補修している乗組員達の姿が印象に残った。
  
 
 
 
 
 
 約40分ほど見学して下船。本船を船尾から眺めてみると,満艦飾を行っていることもあって,実にカラフルで華やか。いかにもラテン民族に相応しい雰囲気のある船だ。それでいて,歴史を感じさせる重みもある。
 
 豚インフルエンザの最初の患者が確認されたことで,メキシコは大きなイメージダウンを被った。観光客が激減,ビーチやリゾートも閑散として,観光産業は大打撃を受けていると聞く。一日も早く,復興されることをお祈りしたい。それにしても,私が嬉しかったのは,マスクをかけている人を見かけなかったことだ。乗組員は勿論のこと,見物客の誰一人としてマスクをかけていなかった。

 マリアッチの奏でるメキシコの伝統音楽を聴きながら,リュウゼツランから造られたテキーラを飲み,メキシコ料理のタコスをいただく。その傍らには,カルメンの血を引く情熱的なメキシコ美女が微笑んでいる。リゾート地の美しい青い空と海。マヤ文明の遺跡巡り等々。そうだ,メキシコへ行こう!……私の妄想は,暴走すると止まることを知らない。
 

本船の案内板から

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