観音崎今昔写真館
権現洞に落石防護網

2008年(H20)頃までの権現洞
 今は昔,「権現洞」と名付けられた海蝕洞は,海に面した波が打ちつける場所にある切り立った海食崖と呼ばれる崖であった。その崖の岩盤の割れ目などの弱い部分を,波が長い年月をかけて削ってできた洞穴が海蝕洞。それが海水面の低下や地殻変動により隆起したことで,権現洞は今,海抜約5mの場所にある。
   

2006.9.3
   
2014年(H26)岩手県宮古市浄土ヶ浜の遊覧船上から見かけた海蝕洞。これが隆起すると権現洞のようになる。
    
    
落石防護網取付工事中
 2009年(H21)10月27日権現洞の周辺で,なにやら大規模な工事が行われていた。洞穴の上部及び左右に生えている木々は切り倒され,上部から10数本の太いロープを垂らし,それを伝って数人の人が作業をしている。たまたま居合わせた人の話では,安全対策工事の一環で落石防護のための金網を取り付ける工事をしているという。
  
     
 その後1ヶ月ほどして工事は終了したが,洞穴は何とも無粋な姿になっていた。開口部以外は全て金網で覆われていたのだ。その上,洞穴の前にコンクリート製の安全防護柵も設置されている。権現洞は観音崎観光の目玉の一つ。安全対策も大事だが,景観を損なうこと甚だしい。

 洞穴の前に立ち足元を見ると,安全防護柵の約1m手前に四角いコンクリートの跡がある。どうやら落石防護網を設置する前の安全柵の支柱跡のようだ。洞穴内をより近くに見えるようにとの配慮と思われるが,そこからの眺めは正直のところ以前と比べて大差ないように感じる。
   

2023.3.8
 
公園内の落石防護網設置箇所の現状
    
 権現洞に落石防護網が設置された2009年前後から園路沿いの崖地には,次から次へと落石防護網を設置する工事が施され,それはいまだに続いている。その結果,今では公園内の大半の崖地が落石防護網に覆われてしまったと言っても過言ではない。

 正直のところ落石防護網の見た目は,あまり感じの良いものではない。安心感を与えたり注意力を喚起するよりも恐怖心を煽るような気持ちになるのは私だけだろうか?必要な安全対策工事に異論を唱えるつもりはないが,過剰とも思われる工事も少なからず見受けられる。「県立観音崎公園再生計画(案)」をそろそろ復活して欲しいものだが,「安全第一」の錦の御旗には逆らえないのが現状。

 園内の崖地に落石防護網の設置工事が始まってから,古いものでは既に10~16年が経過。最近では園内を歩いていてもあまり気にすることも少なくなってしまった。慣らされてしまったのかと思いながら,設置した辺りの場所をカメラ片手に歩いて見たところ,自然の持つ回復力・治癒力の大きさに改めて驚かされた。しかしながら,今後の設置工事及びメンテナンスの参考になると思われる事例もいくつか目についた。私は土木工学の専門家でもカジッタことすらないずぶの素人だが,少なからず参考になることもあるかと思われるので,写真でご紹介したい。

 尚,落石防護網には「覆式落石防護網」と「ポケット式落石防護網」の二種類があり,法面(のりめん)と呼ばれる防護網を設置する地盤の傾斜面の状態によって使い分けている。
 2023.6.9
  
権現洞
 
 権現洞のある崖地には覆式落石防護網が設置された。工事中は崖地全体の草木が刈り払われ丸坊主にされてしまったが,施工後14年が経過。今では,洞窟の開口部周辺以外には,網目から顔を出した草木が生い茂り,防護網の存在があまりわからなくなっている。

 その反面,固い岩盤が垂直に剥き出しになっていて,ほとんど表土が堆積していない開口部周辺は植物の姿もまばらで,四角形に切り取られた防護網の存在が妙に目障りな感じがする。開口部の防護網を洞穴の形状に合わせて少し大きめな半楕円形に改修できないものだろうか? 

 もし,それが技術的に難しいようであれば,観音崎周辺に自生する塩害に強い常緑つる性木本のオオイタビを網の下部に植栽して網伝いに繁殖させるのは如何でしょう?いずれにしても,現在の状態は観光スポットの一つとして,少々お粗末な感じが否めない。
   

2023.5.16
灯台への坂道
 
 観光スポットの一つ「灯台」へ通じる坂道の崖には覆式落石防護網が設置されているが,崖が硬い岩盤で表土がほとんど堆積していないため植物はあまり生えず,落石防護網は剥き出しのままで,法尻(のりじり)と呼ばれる崖斜面下部に岩石等は全くたまっていない。この坂道は観音崎では通行量の多い場所なので,万一を考えて設置したと思われるが,ここまでする必要があったのか?後述の「塔のへつり」と対比するといささか疑問を感じる。
  

2023.3.8
   

2023.3.8
 
第2駐車場~三軒家トイレ~花の広場への坂道
    
 灯台・」権現洞と並ぶ 観光スポットの一つ「花の広場」へ通じる第2駐車場から三軒家トイレに至る緩やかな坂道。道はくねくねと曲がりその左側はほとんどが崖。崖はほぼ北西ー北ー北東に面し,その上部には薄い表土が堆積。その上に大木が生えている場所も多く,過去に倒木や崖崩れがあった箇所もある。それもあって崖の約70~80%に落石防護網が設置されている。防護網を設置してから10~16年が経過したこの坂道を注意深く歩いてみたところ,改めて自然の持つ回復力・治癒力の大きさに驚かされると共に,今迄気づかなかった大きな問題点が浮かび上がってきた。そこで工事直後と今回撮影した写真を対比する形で問題点をご紹介したい。 
   
X地点付近の今昔
  
 この坂道の途中に,自然の持つ回復力・治癒力の大きさと公園が抱える大きな問題点を感じる興味深い場所がある。その場所を仮に「X地点」,その場所の下方を「A地点」,上方を「B地点」と名付け,その「今・昔」写真を覧いただきたい。
  
   
A地点下方からX地点を撮影

2007.3.7
 
 A地点の崖は写真左上に網目が若干覗いているものの,アジサイなどの低木やつる植物・シダ類その他が全面に生い茂り回復が進んでいる。崖は北西に面し,向い側には高木は見当たらず,中低木の落葉樹が生えてるだけなので,日照条件に恵まれているのが幸いしているようだ。
   

2023.6.6
X地点の今
   
 X地点の崖は,北東に面しているため日照条件はA地点より若干劣るが,向い側はほぼ同条件のため防護網設置直後に比べてそれなりに回復している。しかしながらポケット式防護網を採用,網が直立して高いためその存在が未だに目立ちすぎる。それを和らげる対策として,観音崎に自生する常緑つる性木本のフウトウカズラやテイカカズラ,つる性落葉木本のフジを網の下部に植栽したら如何だろう?
  

2023.6.6
 
B地点上方からX地点を撮影

2007.3.7
 
 B地点の崖の日照条件は,上記2地点に比べて一番劣る。東に面しているが,向い側に常緑高木のマテバシイが繁茂,林を形成して陽光を遮るため,崖に生えているのはほとんどシダ類で,防護網設置直後に撮影した写真と比べても,あまり回復しているとは思われない。

 この地点から更に上っていくと,マテバシイは更にその数を増し,ますます崖の植生状態は悪くなる。マテバシイの林の中は,落ち葉が堆積しているだけで,林床に他の草木の姿はない。落石防護網の見てくれも大事だが,喫緊の課題として「マテバシイによる公園の荒廃化」が心配になってきた。マテバシイを適度に間伐すれば,林内の日当たりが良くなり,生物の多様性も増すのでは?在来植物を保護して繁茂すれば,結果として落石防止網の存在も目立たなくなることが期待される。

 尚,マテバシイ問題については後日調査の上,「マテバシイが公園を荒廃」と題して掲載したいと思います。
 

2023.6.6
 
蛇  足
福島県・塔のへつり
 「落石防護網取付工事中」の写真を撮った2日後の2009年10月29日,家内と出かけた東北旅行で驚くべき光景を目撃した。福島県南会津下郷町にある国の天然記念物にも指定されている「塔のへつり」と呼ばれる断崖の“回廊”。「塔のへつり」は100万年という長い年月をかけて,渓流の激しい流れによる浸食と風化を繰り返しながら造り上げられた断崖で,その景観は見事の一言。驚かされたのは吊り橋から眺めた回廊の光景。

 塔のへつりは観音崎の権現洞に比べてスケールも大きく,はるかに危険そうに見えるが,どこにも落石防護網のようなものは見当たらない。更に驚いたことに回廊の下を流れる川面までは7~8m位はあると思われるが転落防止用の安全柵すら無い。私も家内と回廊を見物して歩いたが,スリル十分だった。
 
 念のため,「塔のへつり」のある南会津下郷町のライブカメラで現在の状態を確認したところ,14年後の現在も落石防護網や転落防止用安全柵は設置されていなかった。「塔のへつり」は国の天然記念物に指定されていることもあって,法律的に現状変更は許されず,また,観光・景観的にもこれらの安全対策工事を施すことは難しいようだが,その後,大きな事故が発生したという話は聞かない。もしここに,観音崎と同じような安全対策工事を実施したらどういうことになるだろう?
    

2009.10.29
 

拡大写真
観音像復元・お披露目式典
  
 権現洞に落石防護網が取り付けられてから10年後の2019年(令和元年)9月,火災で焼失した観音像が33年ぶりに復元され,洞穴内に新たに建立された観音堂に安置された。観音崎に陸軍砲台が築造され要塞化されたため,亀崎への移転を余儀なくされた1881年(M14年)から138年ぶりの帰還となり,当日はお披露目式典が権現洞で開催された。式典は関係者約200名が参加して,盛大に執り行われたが,安全柵外はおろか柵内や落石防護網が設置されていない洞穴内にまで来賓が座っていた。落石防護網や安全策の存在に少なからず違和感を覚えた。
    

2019.9.28




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落石防護網の種類
(C) JFE建材株式会社カタログから転載