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秋の彼岸になると,それを待ちかねていたかのように,真っ赤なヒガンバナが咲く。それにしても,ヒガンバナとはよく名づけたもので,彼岸の入りが近くなると必ず芽を出し,開花するから不思議だ。
ヒガンバナには曼珠沙華という別名があるが,私は曼珠沙華という名前が好きだ。真っ赤なその花を見てると,幼い頃の思い出が蘇る。
思い出1. 戦中と戦後の数年間,私は小学校二年生になるまで,茨城県と静岡県の田舎へ疎開していたが,川の土手やタンボのあぜ道に咲いていた目にも鮮やかな赤い花,それが曼珠沙華であった。
そこでは,ホタル,バッタ,トンボ,フナ,ドジョウの他タイコウチやタガメ,ゲンゴロウ等々がいくらでも捕れたものだ。ところが植物となると曼珠沙華以外の名前は思い出せない,それほど曼珠沙華は私にとって思いで深い花なのだと思う。 |
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思い出2. 私が小学校四年生の時他界した父が,曼珠沙華を見ると口ずさんでいた歌。
”赤い花なら曼珠沙華 オランダ屋敷に雨が降る 濡れて泣いてた ジャガタラオハル 未練の出船に ああ雨が降る ああ雨が降る”
その時,その歌の意味は分からなかったが,子供心に何故か悲しい歌のように思えた。因みに,ジャガタラオハルは南蛮人の父と日本人の母の間に生まれた混血女性の名前である。曼珠沙華は日本古来の花としては派手で,どこか異色の雰囲気があるところから,このような歌が作られたと思われる。 |
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思い出3. ヒガンバナの球根はそのまま食べると有毒であるが,澱粉が多く含まれているので,すりつぶし長時間水にさらしておくと毒が抜け,食用になるという。飢饉の時の非常食とするため,川の土手や田んぼのあぜ道にその日に備え植えられているのだと,むかし誰かに教えられた記憶がある。
戦中・戦後の疎開先では,サツマイモ,カボチャやスイトンを代用食としていたが,ヒガンバナが鮮やかに咲いていたことを考えると,ヒガンバナの球根を食べなければならないほど食糧事情は悪くなかったと言うことであろうか?
ヒガンバナには別名が曼珠沙華の他に一説では1,000以上あると言われる。「シビトバナ」「ユウレイバナ」「ハカバナ」「ドクバナ」「シビレバナ」等々…感じの悪い,縁起の良くない名前がほとんどである。これはヒガンバナの咲く時期と,花の色・姿形からきたものと思われるが,飢饉の時の非常食として保護するための生活の知恵だったのかもしれない。 |
2003.9.10 |
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