ヤ マ ユ リ
(山百合)


ユリ科  多年草
草丈:1〜1.5m

ヤマユリはどこへ行った?
種子栽培
鱗片栽培
鱗片栽培の球根・園内へ定植
案内看板設置
鱗片栽培の球根・遂に9輪開花!
クロアゲハが吸蜜!
種子栽培の球根も園内へ定植
観音崎の自然を守る会発足
鱗片栽培の球根・38輪開花!



ヤマユリはどこへ行った?
 数年前までたたら浜園地に設置されていた解説板によれば,昭和40年(1965年)頃,観音崎の山々にはヤマユリが沢山生えていたが,植生の変化により減少したという。それを憂えて県土木事務所は平成3年(1991年)12月,旧観音崎自然博物館があった場所の右側山の上に「県花山ゆり育成地」を造成した。

 それから27年が経過,現在その場所にヤマユリは一株も残っていない。原因は植生の変化もさる事ながら盗掘にあると思われる。10年位前には30〜40株あった園内に散在するものも盗掘によりほぼ半減。残されたものの多くは近づくと危険な場所にある。観音崎のヤマユリは風前の灯火と言っても過言では無い。

 そこでフィールドレンジャー(公園案内のボランティア)の有志が主体となって活動している観音崎の植物を守る会では,平成27年(2015年)からヤマユリの栽培に取り組むことになった。栽培方法は「種子栽培」と「鱗片栽培」の2種類。「種子栽培」の場合,播種から一輪開花まで順調にいって5〜6年。「鱗片栽培」の場合,挿し芽から一輪開花まで3〜4年。いずれにしても息の長い活動になりそうだ。現在,苗圃のプランターでは合わせて約800株前後のヤマユリが育っている。
2018.6.16
 

2005.6.27
 

2005.6.27



種子栽培
人工授粉
 ヤマユリの送粉者はスズメガとアゲハチョウが知られているが,観音崎ではヤマユリの個体数が少ないため他家受粉はあまり期待できない。自家受粉でも結実するが他家受粉の方が遺伝的により健全な個体が期待できることから人工授粉に挑戦した。更に近くの個体間で花粉をやりとりするよりも遠方同士が望ましい。ところがいざ作業にとりかかると開花時期が場所や個体により微妙に異なるため掛け合わせるタイミングが思いの外難しかった。

2015.6.24

成熟刮ハ採取
茶色くなって割れ始めたタイミングを見計らって採取。

2015.11.9

完熟刮ハから種子採取

2015.12.8

種子をプランターに播種

2015.12.8

プランター表面に落葉を被せ養生
乾燥防止と雑草が生えにくいように,翌々年の春まで見守った。

2015.12.8

発芽(播種後1年4ヶ月目)
 ヤマユリの発芽は晩秋結実後,翌々年の春になる。発根は翌年の夏頃で根が先に出る。発芽時の鱗茎(球根)は米粒くらいの大きさ。

2017.4.4

種子から育った若芽(播種後2年6ヶ月目)

2018.6.7

<種子栽培>一株に一輪・開花予定
2021年6月(5年6ヶ月目)



鱗片栽培
 「鱗片栽培」をするにあたり悩んだのが球根の入手。球根は市販しているので簡単・大量に入手することは可能だが,観音崎の自生種にこだわりたい。そこで目をつけたのが,東京湾海上交通センター正門前から灯台へ通じる道路の側溝脇に生えているヤマユリ。

 その場所は人目に付きやすく地盤も固そうで,いかにも球根を掘り起こすのが難しそうだ。それもあってか奇跡的に盗掘を免れてきたが,毎年,つぼみが大きく膨らみ1〜2輪開花すると茎の上部を何者かに持ち去られてしまう。

 そこで指定管理者に事情を説明,許可を得て球根を傷つけないよう慎重に三人がかりで掘り起こした。球根は直径約10cmの大物,お陰で沢山の鱗片を採取することができた。

2014.6.29
来園者の願い空しく!茎の上部盗難発見

2014.7.6

盗掘の恐れあるため球根採取

2016.2.9

球根の鱗片を剥がし挿し芽

2016.9.27

鱗片から育った球根の植え替え(1年3ヶ月目)
 挿し芽の時は鱗片を腐食から守るため肥料分の無い清潔な用土を使用したが,成長を促すため肥料分の多い腐葉土を混ぜた用土に植え替えた。挿し芽から1年3ヶ月,鱗片は大きなものは大人の親指の先,小さなものでも小指の先位の大きさに育っていた。

2018.1.9

2018.1.9

球根から育った新芽(1年8ヶ月目)

2018.6.7

<鱗片栽培>一株に一輪・開花予定
2020年6月(3年9ヶ月目)

鱗片採取時,残した球根から育ったヤマユリ開花
 鱗片を採取した球根は小さなタマネギほどになってしまったが,これを苗圃に植えてみた。それから1年8ヶ月,2018年6月12日一つだけだが大輪が開花した!

2018.6.7

2018.6.12



鱗片栽培の球根・園内へ定植
 ヤマユリは冬になると地中にある球根を残し,地上にある葉や茎も枯れる。休眠期の1〜2月は球根植え替えのチャンス。観音崎の植物を守る会の活動日は第二火曜日の月1回。2019年の第1回活動日は新年早々の1月8日(火)。お屠蘇気分もさめやらぬ正月明けにもかかわらず10人の会員が参加,午前中は球根の選別とプランター植え替え作業をした。
球根を大・中・小の3種類に選別

2019.1.8

開花が期待できそうな大きい球根を約80ヶ選別

中・小の球根は新しいプランターへ植え替え
園内4ヶ所に定植
 午後は鱗片栽培で増やした球根のうち,開花が期待できそうなもの約80ヶを園内4ヶ所へ試験的に定植する事になった。午後の作業には高所への定植作業もあるため,指定管理者の管理主任及び管理員1名にも参加を頂き,安全第一で作業を無事終了する事ができた。

2019.1.8
日毎に生長

2019.4.15

2019.5.24

2019.6.28



解説看板の設置
 園内4ヶ所に定植した球根が発芽,日毎に生長,ツボミが膨らみ始めると少々不安になった。園路沿いに植えた球根は心ない人に盗掘されないだろうか? ツボミが膨らみ開花したら,茎を切り取って持ち去られないだろうか? 「ヤマユリはどこへ行った?」の悪夢が脳裏をよぎった。

 そこで植物を守る会のアドバイザー瀬長剛氏(昆虫画や植物画を趣味で描いている造園設計コンサルタント)に,来園者へ理解・協力を呼びかける解説看板の原稿作成を依頼した。数日してメールで届いた原稿は,期待以上の出来映え。これを指定管理者へ提出。解説看板設置をお願いしたところ「快諾」を貰い,数日後には園路沿いの2ヶ所に粋な看板が登場した。

2019.6.17



鱗片栽培の球根・遂に開花!
 ツボミが膨らみ始めた時,瀬長アドバイザーから「鱗片栽培の場合,挿し芽から開花まで3〜4年かかると言われています。今回定植した球根はまだ2年9ヶ月,花を咲かせてしまうと球根に負担がかかり枯れてしまう恐れもあるので,今年は開花させずにツボミを刈り取ったらどうだろうか?」と提案があった。

 しかしながら,私をはじめ平均年齢70代半ば?の会員からは「是非,自分たちで栽培したヤマユリの花を一目でも早く見てみたい!開花するまで生きているかどうかもわからないから?」冗談とも本気ともつかない意見も飛び出し,流石の瀬長アドバイザーも諦めて,ツボミは刈り取らない事になった。その結果,園内4ヶ所に定植した約80ヶの球根から,3ヶ所合計で1輪開花株が9株あった。数はそれほど多く無かったが,これまでの苦労が一気に吹き飛んだような気がした。

2019.7.2

2019.6.28

2019.7.1
クロアゲハが吸蜜!
 管理員詰所裏・園路沿い傾斜地に咲いた3輪のヤマユリの写真を撮っていると,1頭のアゲハチョウが突然どこからともなく現れた。クロアゲハのようだ。花びらの縁に止まり口吻を伸ばして一心不乱に吸蜜している。園内にヤマユリが増えれば,彼ら?アゲハチョウやスズメガ達が私達に代わって受粉させてくれるのだろう。
2019.6.28



種子栽培の球根も園内へ定植
 観音崎の植物を守る会の2020年1月例会は1月14日。今年も正月明けにもかかわらず9人の会員が参加。午前中は球根の選別とプランター植え替え作業。午後は園内5ヶ所への定植作業。
球根を大・中・小の3種類に選別
 昨年は鱗片から育てた開花が期待できそうな大きな球根だけを約80ヶ選別して定植。9輪の開花を見ることができた。これに気を良くして,今年は鱗片から育てた大きな球根46ヶ,中サイズの37ヶに加えて,種子から育てた中サイズの32ヶ,合計115ヶの球根を選別。無数の小サイズ球根は再びプランターへ植え替えた。
   
  
  
   

無数の小サイズの球根は再びプランターへ
   
園内5ヶ所に定植
 午後は大中合わせて115ヶの球根の定植作業。指定管理者の管理主任も加わり,昨年,発芽・開花率が良かった2ヶ所と新規に適地と思われる3ヶ所へ定植することになった。瀬長アドバイザーによれば,ヤマユリが好む場所は日当たりが良すぎても悪すぎても駄目。ほどよく木漏れ日がさし,水はけの良い傾斜地が適地とのこと。

 尚,種子から育てた中サイズの球根は,播種後4年経過しただけで今年の開花は期待できないため,18ヶだけ分離して新規の場所へまとめて定植。その後の生育状態を観察することにした。
   

昨年この場所では5輪開花

昨年この場所では3輪開花

管理員にお願いして新規に開墾した場所



観音崎の自然を守る会発足
 ヤマユリ栽培等の活動をしている「観音崎の植物を守る会」は,2007年(平成19年)にフィールドレンジャー(公園案内のボランティア)の有志が主体となって発足したグループだが,会員が高齢化して人数も減少傾向にあるため,園内で瀬長アドバイザーが代表として昆虫類保護を主体に活動している「観音崎の昆虫と自然の会」と合併して,2020年4月1日から「観音崎の自然を守る会」として活動を開始することになった。

 代表はメンバーの中で一番若手の瀬長剛氏。歳は若いが?専門的知識と行動力は誰もが認めるところ。我々の活動を次世代にバトンタッチする中継役としては最適任。活動日は第二火曜日と第四金曜日の月2回。今後の活躍が期待されるところだが,新型コロナウイルスという想定外の難敵が突然現れ,思うような活動ができないでいるのが現状。

 園内でのボランティア活動は2月末まで平常通り行われていたが,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,指定管理者からの申し入れで3月3日〜3月15日まで活動を自粛することになった。しかしその後も新型コロナウイルスの猛威は衰えず,緊急事態宣言が発令されたり解除されたりしたものの,東京はじめ都市圏ではまだ火種がくすぶっていることもあって,ボランティア活動の活動自粛が正式に解除されるのは8月末頃になる見通しだ。
 



鱗片栽培の球根・38輪開花!
 公園内はボランティア活動自粛中でも,昨年の台風による倒木・崖崩れ等で通行禁止となっている園路を除けば,誰でも自由に散策できる。幸いヤマユリの定植地は全て自由に観察できる場所にあるので,この点不幸中の幸い。観音崎では梅雨入り前後からアジサイが色づき始め,ヤマユリのツボミが膨らみ始めたので,天気が良ければ1週間に2〜3回程度は,毎回コースを変えながら自生や定植したヤマユリのツボミの膨らみ状態をチェックすることにしている。

 6月24日,昨年5輪開花して一番成績の良かったA地点へ行ってみると,なんと15株のツボミが開花寸前になっていた。そのうちの4株にはツボミがそれぞれ2ヶついていた。その後,今年初めて44ヶの球根を定植したB地点へ行ったところ,8株が開花してツボミはゼロ。どうやらヤマユリにとってA地点でも悪くは無いが,B地点の方がより条件が良いように思われる。
   

A地点   2020.6.24

B地点   2020.6.24
 三日後の6月27日,A地点へ行ってみるとツボミの株を4株残して,11株が見事に開花していた。2輪開花株も4株ある。写真を撮りながら眺めていると,通りすがりの家族連れやご夫婦が,ヤマユリに感激して足を止め,写真を撮ったり匂いを嗅いだりしている。その光景は私達ボランティアへの最大のプレゼントのように思えた。

 その後,定植した7地点をチェックしたところ,これ迄の定植球根数195ヶに対し,100ヶが発芽,1輪開花が26株,2輪開花が6株,合計32株に38輪が開花した。昨年の9輪から4倍増した事になる。ヤマユリの球根は年を重ねる毎に大きくなり,花の数も増えていくと言われる。観音崎を「ヤマユリの里」にの合い言葉も夢では無くなりそうだ。
  

A地点  15輪開花/ツボミ4ヶ   2020.6.27

A地点  2株に各2輪開花   2020.6.27

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