ヤブレガサ
(破れ傘)

キク科 多年草
花 期 6〜7月
草 丈 60〜90cm
 私がこれまで「モミジガサ」と信じていた植物が「ヤブレガサ」であることが判明した。そのきっかけは,6月に行われたフィールドレンジャーの新人研修会だった。

 植物研修で観音崎公園内を案内中,白い花のツボミがふくらみ始めたモミジに似た葉を指さしながら「あれは観音崎では珍しいモミジガサです!」と説明したところ,新人の一人から「あれはヤブレガサではないですか?」と質問された。

 私は即座に「あの葉は切れ込みが少ないのでモミジガサです!ヤブレガサは葉の切れ込みがもっと大きいようです!」と得意気に答えた。すると近くにいたフィールドレンジャの先輩女性が「観音崎にモミジガサはないと聞いたことがあるわ!」とつぶやかれた。 
 2007.7.11
  
 研修会終了後,そのことを詳しく尋ねたところ,観音崎自然博物館の主幹研究員からそう聞いたことがあるとの返事だった。モミジガサとヤブレガサが似ていることは私も承知していたが,小学館のNEO植物図鑑の写真と見比べて,モミジガサと信じていただけに,私にとってはショックだった。実はこれまでも,この植物をモミジガサと数人に説明した記憶がある。一大事発生だ!
  
 翌日,写真を持って博物館へ行き,主幹研究員に鑑定をお願いしたところ「写真では断定できないが,ヤブレガサでしょう!この葉の持ち主が生えていた場所の近くには,もっと葉の切れ込みが大きいものも生えている筈?できれば実物を採集,顕微鏡で葉の組織等を調べてみましょう!」と言われた。
  
 早速,現地へ行き周辺を調べたところ,10m位離れた場所に,葉の切れ込みがより大きい群落を見つけた。確かに先のものより葉の切れ込みは大きいが,図鑑のヤブレガサと比べるとまだ切れ込みが少ないようにも思われる。そこで特徴的な2種類の葉を採集,博物館へ持ち帰り,鑑定をお願いすることにした。

 (注)観音崎では,原則として動植物の採集が禁止されているが,博物館が研究と展示目的で少数採集することは県の許可を得ている。尚,今回採集した2枚の葉は,翌日,博物館の植物コーナーに「ヤブレガサ」として展示された。
  
  
 2枚の葉を並べて見ると,素人目には別種のように見える。細部を写真に撮り拡大比較して見ても同様である。ところが,主幹研究員が顕微鏡で葉の組織や,専門書で葉の形状等について調べた結論は,どちらもヤブレガサであった。葉の形状や切れ込みの大小に一見相違はあるものの,専門的には同一種で,モミジガサに似た葉は変種と考えればいいようだ。
   
  
 
 
 
 どちらもヤブレガサとの結論を伺ってから,一つ大事なことを忘れていたことに気づいた。花の形状やサイズはどうだろうか?改めて採集当日撮影した花の写真を見比べてみたところ,どちらの頭花も管状花でうり二つ,ネットに掲載されているヤブレガサの花の写真ともそっくりだ。矢張りヤブレガサとするのが妥当なようで,我ながらお恥ずかしい限りである。(*^_^*)

 私の思い違いから「モミジガサ」とご説明した方々には,本来ならば,一人一人お会いして,訂正させていただきたいところだが,残念ながら,連絡先の判らない方が多い。止むを得ず,本サイト上でお詫びして訂正させていただくことにします。m(_ _)m
   
 ヤブレガサの名前の由来は,早春,芽吹きの時の姿が,破れた傘に似ていることから名づけられたようだが,あいにく私の手元にはそのような写真がない。今春,3月12日に撮影した写真は時期的に少し遅かったのか,芽吹きの葉特有の白い毛が見当たらず,ヤブレガサのユーモラスな雰囲気が伝わってこない。来春,3月上旬頃,そのユーモラスな姿をものにしたいと思う。
  

2007.3.12
  

2007.4.11
芽吹き
 新春,暦が2月に代わるとヤブレガサのことが気になりだした。3月に入ってからは2〜3日置きに現地を訪れ様子を窺っていたが,一向に芽吹きの気配がない。今年の冬は,暖地の観音崎としては珍しく雪が降ったり,例年に比べ寒かったのが影響,芽吹きが遅れているようだ。

 3月16日,フィールドレンジャーの仲間たちと,現地へ植物の分布調査に出かけ,いつもヤブレガサを見かける辺りを,目を皿のようにして探したが,なかなか見つからない。あきらめかけた時,仲間の一人が「見つけたぞ!」と声を上げた。指差す辺りを見ると,紛れもなくヤブレガサだった。

 その辺りには,いろいろな状態のヤブレガサが芽吹いていた。まだ地中から頭を少しのぞかせたもの,カサをつぼめたもの,半開きにしたもの等々,いろいろな状態のものが揃っている。滅多にないチャンスに,胸を躍らせながら十数枚の写真を撮った。
2008.3.16
  
  
  
  

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