釣り忍

 6月17日(日)の「父の日」を前に,長男夫婦から粋なプレゼントが届いた。“釣り忍”だった。釣り忍と共に送られてきた説明書によれば『釣り忍は竹やイグサを芯にしてヤマゴケを巻きつけ,その上にシダ類のシノブの根茎を巻きつけて作ります。江戸時代中期,庭師が夏のご挨拶として取引先に配ったのが始まりとされ,明治から昭和初期にかけて広まり,東京下町の軒先を飾っていました。今でもほうずき市や朝顔市などで,釣り忍が風鈴の音と共に涼を呼んでいます。』とあった。

 釣り忍の形には井桁・球形・舟形等があるが,今回のプレゼントは,筏の上に乗った筏師が,長い棹を巧みにあやつり,急流を下る光景をイメージしている舟形と呼ばれるタイプで,涼感漂う,いかにも夏にふさわしい贈り物だ。 
2007.6.10
 早速,赤いガラス製の風鈴がついた釣り忍を軒下に吊してみると,折からのそよ風に♪チリチリン,チリチリン♪爽やかな音色を響かせている。
 釣り忍に巻きつけられたシノブを眺めながら,似たようなシダ類が観音崎にもあることに気づいた。シノブそのものにはお目にかかったことはないが,ホラシノブやタチシノブは名前からも似ていそうだ。

 早速,ストック写真を探してみたが,あまり出来の良いのが見当たらない。そこで,善は急げと観音崎へバイクを飛ばし,ホラシノブとタチシノブの写真を撮ってきた。本来ならば,実物を採集して持ち帰り比較したいところだったが,観音崎は動植物の採集が禁止されていることでもあり,写真だけで我慢することにした。

 ホラシノブとタチシノブの写真をシノブと見比べてみると,ホラシノブの方がシノブに近い感じがするが,いずれも釣り忍にしたらそれなりの物ができそうだ。しかしながら,どちらも観音崎では数少ないシダなので,想像するだけに留めておこう。

ホラシノブ
 

タチシノブ
余      談
      
 今から60年も昔のことになるが,私は子どもの頃,東京・品川の下町に住んでいた。夏,狭い路地裏を歩くと,あちこちの家の軒先には,釣り忍や風鈴,キリギリスの入った竹ヒゴで作った虫籠が吊されていたものだ。

 エアコンはおろか扇風機すら見かけなかった時代。風鈴の音やキリギリスの鳴き声は,一服の清涼剤であり,夏の風物詩だった。♪チリチリン,チリチリン♪風鈴の音に混じって,時折,♪ギーッチョン,ギーッチョン♪とキリギリスの鳴き声も聞こえてくる。朝顔の日よけの下では,縁台将棋をしている人がいる。遠くの方から金魚やさんの売り声が聞こえてくる。♪キンギョーェ,キンギョー♪遠い遠い夏の日の思い出が蘇ってきた。
中国のシダと釣り忍の再利用
  
 釣り忍の寿命は2年で終わった。ガラス製の風鈴と羊歯のシノブは健在だったが。竹製の部分と針金が腐食して,使い物にならなくなってしまった。新しい竹で釣り忍を復元することも考えたが,2001年に中国・雲南省へ旅した時見た羊歯の盆栽?を思い出し,それを真似てみることにした。

 雲南省のホテルのロビーには,シダ類の盆栽が多く飾られ,庭園にもシダ類が多用されていた。シダの種類はホウライシダとタマシダが中心だったが,名も知らぬシダも数多く見うけられた。雲南省の人々はシダを殊のほか愛しているようだ。
2011.6.11
  
 
     
  
   
 
 ホテルの盆栽には,岩山や巨岩を想わせる形の石が使われていたが,我が家にはそれらしき石はない。思いついたのが観音崎の海岸で拾った流木の根っこ。シノブの根の部分に水苔を巻きつけ,流木の根っこの窪み数ヶ所に細い針金で留めてみた。

 それから3年が経過。流木の根っこに根付いたシノブは,我が家二階のベランダの片隅で,青々とした葉を茂らせている。一見したところ,雲南省ホテルの盆栽に引けをとらない風情があり,普段はなにかと手厳しい家内も,これだけは手放しで誉めてくれる。

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