テイカカズラ
(定家葛)
キョウチクトウ科 つる性常緑木本
観音崎公園の青少年の村から戦没船員の碑に至る山道を歩いていると,鳥の羽毛のような白いものが目の前をかすめて地面に落ちた。 拾い上げてみると何かのタネのようで,頭上を見回してみたがタネの主は解らない。そこで観音崎自然博物館へ行き,「植物のたね」の展示で何かとお忙しい主幹研究員にお尋ねしたところ,テイカカズラの実であることが判明した。 それから数日後,戦没船員の碑に至る通称「皇室の道」と呼ばれる坂道を歩いていると,路上に無数のテイカカズラの実が散乱しているのを見つけた。 あたりを見回すと頭上はるか高いところで,テイカカズラの実がはじけ,強い北風にあおられタネを飛ばしているのが目撃された。 そこで,パラシュートのように落ちてくる実を写真に撮ろうとしたが,カサの部分に比較してタネが大きく重たいためか,落下速度が速くデジカメのシャッタースピードでは追随できず,失敗に終わった。 |
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2003.12.19 | |
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テイカカズラはキョウチクトウ科の常緑ツル植物で,その名は「新古今和歌集」の選者,歌人の藤原定家に由来すると言われるが,私の知るところでは二つの説がある。 その1.定家を慕っていた女性が,定家の死を嘆き悲しみ,その墓を抱きかかえるように亡くなり,その化身がカズラとなって定家の墓を覆いつくしたため,テイカカズラと呼ばれるようになった。……この説は私がボランティアになりたての頃,先輩から聞いた話であるが,真偽のほどは不明である。 その2.定家には式子内親王(後白河上皇の皇女)という恋人がいたが,内親王が若くして亡くなり恋は実らず,嘆き悲しんだ定家の妄執がカズラとなり,内親王の墓石にからみつきテイカカズラと呼ばれるようになった。 いずれにしても凄まじい執念であるが,下の写真のテイカカズラを見ると,古人が「恋の妄執」に見立てテイカカズラと名づけたのが解るような気がする。 それにしても,古人の植物・動物等のネーミングの妙には感心することが度々ある。 |
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2002.3.26 |
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2004年5月31日観音崎を歩くと,テイカカズラがいたるところで花盛りであった。大木や構築物に絡みつくように伸びたツルに,小さな白い花をビッシリとつけている姿は壮観であるが,その名の由来を知るとちょっと不気味でもある。 その小さな白い花をクローズアップしてみて,その花の形が船のプロペラに似ていることに,今回初めて気づいた。私はリタイアするまで船に関係する仕事をしていて,プロペラにはなにかと因縁があったので,心ならずもいろいろなことを思い出し,一人苦笑いしてその場を後にした。 |
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テイカカズラの実は「人」という字に似た形で,最初は緑色をしているが,やがてサツマイモの皮に似た赤紫色になる。時折,その傍に丸い実のようなものを見かけることがある。実が二種類あるのだろうか?疑問に思いながらも生来不精者の私は,そのことをこれまで放置してきた。 ところが先日。ボランティア仲間と公園内を観察中,仲間の一人がテイカカズラを指さしながら「あの丸い実のようなものはミサキフクレフシという,タマバエの虫営らしいよ!」と言いだした。帰宅後,ネットで調べたところ彼の言うとおりで,本来細長く「人」形になる実にテイカカズラミタマバエが寄生して,球形になってしまったテイカカズラミサキフクレフシという虫営であることがわかった。いろいろな意味で「目から鱗が落ちる」心境である。 |
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2014.11.7 | |