シンジュサン
(樗蚕・神樹蚕)


チョウ目 ヤママユガ科
前ばね長さ:65〜80cm

 町内のホームページの取材に盆踊り会場へ出かけた。会場の公園では,祭り提灯が沢山吊り下げられ,その下で老若男女が楽しげに踊っていた。会場のスナップ撮影をしていると,近くにいた小学5〜6年生位の男の子が「大きな蛾だ!」と叫んだ。指差す先の高い電柱の上を見ると,煌々と輝く庭園灯の周りを大きな蛾が飛び回っていた。これまでお目にかかったことがない大きな蛾だ。

 一瞬,世界一大きな蛾「ヨナグニサン」かと思ったが,温暖化が進んだとは言いながら,沖縄の八重山諸島のみに分布する蛾が,北上しているという話は聞いたことがない。私が怪訝な顔をしていると,男の子が「シンジュサンかもしれないよ!」と言った。時に子供の中には,生半可な大人より専門的知識を持つ子がいる。子供昆虫博士の説を信じることにした。
 いずれにしても滅多にないチャンス,兎にも角にも写真を撮ろう!盆踊りの取材は放り出し,シンジュサンの撮影に専念することにした。シンジュサンはしばらく灯りの周りを飛び回っていたが,やがて疲れたのか,螺旋階段を下りるような感じで,旋回しながら地面に落下した。

 シャッターチャンス到来!落下した辺りへ駆け寄ると,私の気配を察したのか,シンジュサンは舞い上がってしまったが,飛び去ることはなく,再び灯りの周りを旋回しだした。そしてしばらくして再び落下。これを数回繰り返した後,模擬店の飾りに取り付けられた,竹の上に留まった。

 シンジュサンの留まった場所は,地上から約3〜4mの高さ。羽を広げたまま動かない。ビッグチャンス!夢中で10枚ほどの写真を撮ったが,一息ついたところで欲が出た。もう少し間近なところで,より鮮明な画像をものにしたい。シンジュサンが留まっている竹を静かに揺すってみた。
 
 留まっている竹を揺すられたシンジュサンは,よほど疲れていたのかポトリと落ちて,竹につけられた青い飾り花の上に留まった。高さは約2m。羽は広げたまま,薄紙で作られた花にしがみついている。夢中で写真を数枚撮ったところで,竹の葉が邪魔をしていることに気づいた。
   
 背伸びして,恐る恐る羽の周辺にある竹の葉を取り除いたが,シンジュサンは微動だにしない。サマージャンボ宝くじの三億円とはいかないまでも,百万円くらいに当たったような幸せな気分で写真を撮らせて貰った。

 撮影後,私の傍でただ一人,この顛末を見守ってくれていた子供昆虫博士に礼を言って一旦帰宅。早速,パソコンに取り込んだ画像と,昆虫図鑑を見比べて,シンジュサンであることを確認した。子供昆虫博士の慧眼にはただただ脱帽である。

 シンジュサンはヨナグニサンを除けば日本最大の蛾。漢字で真珠蚕と書くものと思っていたが,樗蚕又は神樹蚕が正しい。名前の樗蚕は,幼虫の食べ物がニワウルシ,別名シンジュ(樗)を好むことから。また,神樹蚕は,英名「Tree of Heaven」の直訳。

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