マヤラン
(摩耶蘭)



ラン科  腐生殖物
絶滅危惧U類(VU)

観音崎唯一の自生地を守ろう?
マヤラン発見!
サガミランモドキ
2005年9月に発生!
2012年10月に発生!
2017年9&10月に発生!
人面花
マヤラン由来
胞子 → 種子 (訂正)





観音崎唯一のマヤラン自生地を守ろう!
 2022年9月上旬,観音崎公園で知り合った植物愛好仲間から,驚くべき情報が舞い込んだ。「観音崎公園唯一のマヤランが生える木製階段が改修される」という。もし木製階段を撤去し周辺を整地してコンクリート製に改修した場合,マヤランは絶滅すること必死である。

 仮に腐食した木製階段や周辺の土壌を他の場所に移植したとしても,再生する保証は全くない。マヤランは根と葉を持たず特殊な菌(特定の種類の樹木に着く共生菌)から栄養と水をもらって生きているデリケートな植物であるため,このつながりを断ち切ってしまうからである。
 
 マヤランは環境省レッドリストに絶滅危惧U類(VU)として記載されている希少植物。観音崎にはかって,マヤランより希少性上位の絶滅危惧IB類(EN)に指定されているカンラン(寒蘭)が自生していた。1994年に神奈川県土木事務所が実施した植生調査報告書(下記参照)によれば,マヤラン自生地周辺にも多数自生していたようだ。2002年の小規模調査でも自生が確認されていたが,その後の改修工事や盗掘により,今では完全に絶滅してしまった。カンランの二の舞だけは勘弁して欲しい!

 1994年に実施された植生調査は,相当な費用をかけて専門家により大規模に行われたと聞いている。ところがその報告書には「マヤラン」の名は登場しない。何故ならば,観音崎でマヤランが発見されたのは2005年7月のこと。本サイトの熱心なリピーター「mtsk」さんが,私にその存在をメールで知らせていただいたのが発端だった。観音崎自然博物館と横須賀市自然・人文博物館へ問い合わせてその希少性を確認した。
 
1994年の報告書に登場する絶滅危惧種と貴重種の現状
カンラン 2008年観音崎の植物を守る会の植生調査では絶滅。盗掘と思われる。
タシロラン 今年も多少発生したが,台風による倒木・伐採等環境の変化で激減。
エビネ 盗掘と管理員不手際(最後の自生地をゴミ捨て場)により絶滅。
キンラン 指定管理者の許可を得てボランティアG.「観音崎の自然を守る会」が継続的に保護活動を実施。現在は比較的健全な状態にある。
 
 絶滅危惧種と貴重種として報告された4種の植物の内,カンランとエビネは既に絶滅,タシロランは散見されるが,かってのように大きな個体が見られる群落は見当たらず消滅寸前。比較的健全なのはキンランだけというのが偽らざる現状。
 
 翻ってマヤランの現状はどうだろう。発見当時,周辺を丹念に調査したところ,半径約20mの範囲内に4ヶ所の自生地が確認された。しかし,その後の倒木や伐採による環境の変化から木製階段周辺以外の3ヶ所では,盗掘された形跡がないのにかかわらず,近年は自生が確認されていない。従って,木製階段周辺が観音崎で唯一の自生地になってしまった。
 
 来園者の安全を考慮した場合,腐食した木製階段では危険,コンクリート製が望ましいのは自明の理。そこで代案として,木製階段周辺は現状で保存するため廃道とし,その近くに迂回路を新設,コンクリート製階段を設置するのは如何だろう?

 「後悔先に立たず」コストアップ等なにかと問題もあると思われるが,何とか知恵を出し合って,希少な植物を次世代に残していただきたいと切に願う。

1994年 県土木事務所・植生調査報告書抜粋
マヤラン発見!
  
 掲示板でお馴染みのmtskさんから「こんにちは。 今,観音崎の森を散歩しています。変わったランを見つけました。つぼみのものもあります。」と携帯メールが入り,写真を添付,場所まで記されていた。

 私がメールを開いた時は既に18時を過ぎていたため,翌日,現地へ出かけることにした。翌朝,習慣となっているメールを開くと,mtskさんから「お早うございます。 昨日のランは、マヤランのようです。タシロラン同様珍しいそうです。場所が見つけやすい所なので、盗掘が心配です。つぼみの株もありますので観察するのもおもしろそうですね。」と続報が入っていた。
2005.7.10

mtskさんから携帯で送られてきた写真
 mtskさんからのメールを便りに,現地でそれらしき場所を探すと,いとも簡単にマヤランを探し出すことができた。花茎を実測したところ11cmと小柄で,3つの花をつけているが,葉らしきものは見当たらない,赤紫の紋様が可愛らしいランだ。近くにはもう一本ツボミを3つつけたものも見られ,花茎は16cmと現在咲いているものより大柄で,花が開くのが待ち遠しい 
 
  
サガミランモドキ
  
 mtskさんから,マヤランを全部で8本確認,その内2本はサガミランモドキかも知れないとの続報が入り,朝食もそこそこに現地へ急行。mtskさんに教えていただいた場所付近を入念に調べてみると,1本多い9本を確認することができた。

9本の内2本は,花や花茎の色が他の7本と異なり赤紫の紋様がない。明らかにサガミランモドキの特徴を備えている。サガミランモドキはマヤランから色素を欠いて白化したアルビノとの説もあるようだが,その割には花茎も長く,ツボミも大きい。周辺区域には,マヤランが更に発生する兆候もあり,ここしばらくは,現地へ日参することになりそうだ。
2005.7.17
    

サガミランモドキ?
2005年9月に発生!
  
 台風一過,しばらくご無沙汰していた観音崎の森を歩いた。一時よりは凌ぎやすくなったものの,日中は依然として暑い。7月にマヤランが発生した場所を通り過ぎようとして,ふと見るとマヤランらしき花が咲いているので我が目を疑った。

 マヤランに似ているものの,雰囲気が若干異なり,より美しく華やかな感じがする。辺りを見回すと開花はしていないが,花茎を伸ばしツボミをつけたものが5本ほど見つかった。マヤランは一年に二度咲きするのだろうか?半信半疑写真に撮り帰宅したが,改めて画像を見比べてみると,7月に見たマヤランと似ているものの,別な種のようにも見える。
2005.9.9
  
2012年10月に発生!
   
 今年の夏は異常に暑かった。猛暑は9月になってからも衰えを知らず,彼岸過ぎまで続いた。そして台風の影響による大雨が数回降り,高温多湿の状態が続いた。ひょっとすると,マヤランが異常発生するかもしれない!

 そんな予感がして,彼岸頃から例年マヤランが発生する辺りを通るたびに,目を皿のようにして探すことにした。そして10月1日,私の予感は的中,7月に発生した場所に1本,少し離れた場所に1本が小さなツボミをつけていた。10月5日,そろそろ花の咲くころと,再び現地を訪れたところ,期待通りの可愛い花が開花していた。 
2012.10.12
   

2012.10.1
 

2012.10.5
 

2012.10.5
2017年9&10月に発生!
    
 近年マヤランの発生数が減少。一時は10本近く発生していたものだが,ここ数年は1〜2本程度で推移。今年は通常マヤランが発生する7月中旬には1本も確認できず,遂に絶滅してしまったのでは?と心配していた。

 それから2ヶ月が経過。突然,ボランティア仲間から朗報が舞い込んだ。マヤランが5本も発生,背丈も高く,花数も多いと言う。この日はたまたま野暮用が重なりヘトヘトに疲れ,昼寝を考えていたところだったが,吉報に疲れも吹き飛び現地へ急行した。

 現地は深い森の中。マヤランは園路の傾斜地に設けられた階段の中で咲いていた。木製の土留めの真下に4本,園路脇に1本。高さは15cm前後で花数も多くそれぞれが美しく花開いている。私がこれ迄に見た中では一番立派。

 興奮気味に10数枚の写真を撮り,我に返ったところで気になったのがマヤランの生えている場所。来園者が歩く園路のど真ん中のため知らずに踏みつけられてしまう恐れがある。また,その美しさに見せられて心ない輩が盗掘することも考えられる。

 公園の管理員と相談して安全な場所へ移植することも考えられるが,マヤランは特殊な菌類に寄生して生活する腐生植物。移植して栽培することは困難なため指をくわえて見守るしかなさそうだ。 
2017.9.15
 9月に発生したマヤランのその後が気になり再び現地へ行ってみた。嬉しいことにマヤランは盗掘されること無く健在で,9月に発生した5本の内3本には緑色の刮ハがついていた。これらが完熟して種子が辺りに飛び散り,来年はより数多く発生することが期待できる。

 更にそれに加えてつい最近発生したと思われる1本が花開いていたので,他にも発生しているのでは?と辺りを念入りに見回してみたところ,驚いたことに他の2ヶ所でそれぞれ1本ずつ咲いているのを見つけた。場所は9月に発生した場所に続く階段の木製土留めの真下。階段から少し離れた場所で発生してくれれば良いのだが,どうやらマヤランは何故かこの条件がお好みのようだ。 
2017.10.6
    
 
 
人 面 花
 
 30年ほど前,頭部を正面から見た場合に,人間の顔のように見える模様を持つ錦鯉が,人面魚として話題になったことがある。私はマヤランの花の模様を眺めていて,人間の顔のように見える花が多いことに気づいた。人面花というと言うのだろうか? そしてその顔は普通の人間では無くて,何故か?任侠芝居に登場する性別不明の旅役者のように思えてならない。
  
   
 
 
  
マヤラン由来
 マヤランはランの一種で,明治12年(1879)神戸・六甲の摩耶山で発見された。種子(胞子…下記参照)によって繁殖する腐生殖物で,環境の変化に弱く栽培には適さない。絶滅が危惧される稀少植物なので,現状のまま繁殖するのを静かに見守りたいと思う。

 マヤランが過去に観音崎で発見されたことがあるかどうか?観音崎自然博物館で確認したところ,浦賀周辺では発見されているが,観音崎では初めてとのことであった。その後,横須賀市自然・人文博物館の大森学芸員に問い合わせたところ,「横須賀市内では野比、吉井、馬堀、武山、観音崎など、いずれもマテバシイの林かマテバシイを主体にした林で(発生が確認)されているようです。」とのご返事をいただいた。 
胞子 → 種子 (訂正)
   
 2009.10.28 T.K.さんから,メールで下記ご指摘をいただき確認の結果,ご指摘の通りでしたので,お詫びして訂正させて頂きます。

 「マヤラン」のページに「胞子によって繁殖する腐生殖物で,環境の変化に弱く栽培には適さない。」とありますが、マヤランは腐生植物ですが、種子によって繁殖する種子植物であります。地上に落ちた種子は菌の力を借りて発芽します。

 また成株になっても共生菌によって生きているため、栽培は実質不可能らしいです。(実験室レベルでは無菌培養により開花に成功している。)おそらくマテバシイの光合成により生成された糖分がマテバシイに共生している菌を通してマヤランに供給されているものと思われる。

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