カントウカンアオイ
(関東寒葵)

別名 : カンアオイ(寒葵)

ウマノスズクサ科
常緑多年草
花 期 10〜2月
草 丈 6〜10cm


 フィールドレンジャーの仲間と観音崎公園の植物分布調査中,カンアオイらしき植物を見つけた。同行した先輩に確認したところ,紛れもなくカンアオイで,三浦半島に自生するものはカントウカンアオイと呼ばれているとのことだった。
2008.1.20

 先輩は更に続けて「ちょうど今頃は花の時期なので,根元に花が咲いている筈だよ!」と言われた。早速,根元を覆っている枯れ葉を取り除いてみると,異様な姿をした花らしきものが現れた。直径が20〜30mmの小さな花で,お世辞にも美しいとは言い難い。

ツボミ?
 カンアオイの花は,一見したところあまり魅力的ではないが,ハート形をした常緑の葉は紋様の変異が著しことから愛好家も多く,江戸時代から栽培されてきたという。このため自生のカンアオイは観賞用として採取の対象となり,今では希少な存在になっているようだ。

 改めて葉の写真を眺めてみると,確かに美しく面白い紋様をしている。1mほど離れた場所で見つけたものと比べても,紋様の変異が著しいこと一目瞭然で,自宅に持ち帰り鉢植えにして観賞したい愛好家の気持ちも分かるような気がする。

 しかしながら,カンアオイの繁殖力は弱く,今や希少な存在であることを考えれば採取することは許されない。カンアオイの花には実がなるのだろうか?実がなればそれを採取して増殖できないだろうか?心ない愛好家に盗掘されないだろうか?

 あれこれ思案しながら,フィールドレンジャーの仲間の誰かが「カンアオイの葉はシクラメンの葉に似ているね!」と言ったのを思い出した。早速,昨年クリスマスに家内が買い求めてきたシクラメンの葉とカンアオイの写真を見比べてみると,確かに似ている。花の姿形は月とスッポンほどの差があるが,葉と茎は同種と見紛うほど良く似ている。もし,「カンアオイを持ち帰りたい!」そんな不埒な考えが頭をかすめたら,シクラメンの葉を眺めて我慢することにしよう!


シクラメンの葉
 昨年見つけたカントウカンアオイの傍を通ると,丁度その付近に,まるでスポットライトを当てたように,木洩れ日が差し込んでいた。薄暗い林の中,落葉に埋もれて人知れず奇妙な花を咲かせるカントウカンアオイ。

 絶好のシャッターチャンス。根元に積もった落葉を取り除いてみると,今年も花が咲いていた。チョウやハチも飛んでこない林の中,それも落葉に埋もれ,何のために奇妙な花を咲かせるのだろうか?撮影後,落葉を元のようにかぶせながら,そんな疑問が頭を過ぎった。

 帰宅後,ネットであれこれ調べてみた所,通常,花の受粉を媒介する昆虫としてはチョウやハチを思い浮かべるが,カンアオイの花や種子はアリを誘引する物質を発し,アリが媒介役を果たしている事が判った。そのためこのような低い場所に奇妙な形をした花を開いているようだ。
2009.1.12

余   談
   
 私はこれまで,徳川家の三つ葉葵紋はカンアオイの葉をデザイン化したものと思いこんでいたが,今回あれこれ調べている過程で,葵紋のモデルはカンアオイと同属のフタバアオイという多年草であることを知った。

 テレビ「水戸黄門」では,ドラマがクライマックスに達すると,毎回必ず三つ葉葵紋が登場する。助さんの「静まれ,静まれ」の声に続き,格さんが「ここにおわす方をどなたと心得る。先の副将軍水戸光圀公なるぞ!頭が高い,この紋所が目に入らぬか!控えおろう!」と言いながら,ふところから印籠を取り出し右手で印籠をかかげる。その印籠には金色の三つ葉葵紋が燦然と輝いている。すると,それまで暴れ回っていた悪人達が一斉に「へへー」と地上にひれ伏す。三つ葉葵紋の威力は絶大だ。

 毎度お馴染みの場面で,いささか食傷気味の感もあるが,テレビ「水戸黄門」が1969年(昭和44年)にスタートした超長寿番組であることを考えると,いつまで続くのか興味深いものがある。因みに,現在の黄門様役は里見光太朗で5代目。初代は月形龍之介と思いこんでいたが,テレビ「水戸黄門」の初代は東野英治郎が正解。月形龍之介が黄門役を演じたのは映画の時代で,初演は1957年(昭和32年),約半世紀前のことだった。昭和は遠くなりにけり!の感がある。

三つ葉葵紋

花暦TOP  植物たちTOP  HOME