鴨居・高橋邸
横須賀市鴨居3-19-2

 観音崎大橋の眼前に広がる浦賀水道とその背後に横たわる房総半島の眺めは雄大で,見るものを圧倒する迫力があるが,その反対側を見ると,小高い山を背負った,いかにも由緒ありそうなお屋敷「高橋邸」が目に飛び込んでくる。
2006.3.3
  
若松町の生みの親  高橋勝一
 
 高橋家は,鴨居にあった会津藩の陣屋の世話をし「若松屋」と号しました。高橋勝七は横須賀中央周辺の海面を埋め立て造成し,その土地は若松町と命名されています。

 勝七は第五代浦賀町長や郡会議長などを歴任し,明治三十七年(1904)衆議院議員になりました。浦賀銀行などの取締役も務め,横須賀の政治・経済界で活躍し,栽培漁業の計画を立てるなど進取の気性の人でした。

 太平洋戦争中には,昭和天皇の弟宮高松宮様がお泊まりになったことでも知られています。

 下記絵図は明治二十七年刊行の日本博覧図関東編で紹介された銅版画です。
浦賀行政センター市民協働事業・浦賀探訪くらぶ「案内板」から転載
 昭和49年(1974)10月,観音崎大橋が開通するまで,バス停・腰越から,たたら浜や観音崎自然博物館方面へは,この高橋邸前の細い道を通った。車1台がやっと通れるほどの道なので,車での通行はご遠慮いただきたいが,歩いてみると,大橋の上から眺めるのとは違った味わいがある。

 現在の高橋邸の母屋は,上記日本博覧図に描かれた旧邸を取り壊し,平成4年に新築落成したものであるが,土蔵・離れ・石塀・前庭・石垣は当時のものをほぼそのまま残している。高橋家は鴨居のみならず三浦半島有数の名門で,歴史的にも文化財として貴重な存在だけに,母屋がそのまま残っていたらと思うが,今となっては後の祭りである。
  
 高橋邸の母屋は残念ながら取り壊されてしまったが,その建築様式を知る上で参考になる建物が近くに現存する。バス停・腰越からきよふじ釣具店の前を右折,高橋邸に向かう途中にある吉澤邸がそれで,高橋邸と比べると規模はそれ程大きくないが,同時期に造られたと思われ,こちらは当時の面影をほぼそのまま残している。

 (追記)
 吉澤邸について,高橋家の方からメールで貴重な情報を頂戴した。現在の吉澤邸は元は高橋家の分家が所有していたが,本家が絶えてしまったため,分家の方が現在の高橋邸へ移り,その後,一時期,浦賀ドックが倶楽部として使用後,吉澤家に売却されたと言う。(2010.9.13)
   
 「日本博覧図」に紹介された高橋邸を眺めていて,面白いことに気づいた。屋敷の前には道路を挟んで前庭があるが,その前庭の石垣の下まで波が打ち寄せ,小舟まで係船されている。

現在,石垣下から波打ち際まで相当離れているのに何故だろう?原因は関東大震災にあるようだ。大正十二年(1923)9月に発生した大地震によって観音埼灯台の二代目が崩壊したことでも解るように,観音崎周辺でも大きな被害があり,海底も隆起したと言われている。

 「日本博覧図」は明治二十七年に刊行されたものなので,大震災前はこの絵の通り,石垣下まで波が打ち寄せていたのだろう。現在の波打ち際は石垣下から歩測すると約20mほど離れていた。大震災前と現在の波打ち際の高低差は,目測したところ約1m位はある。これらの差は隆起によって生じたものと思われる。 
   

画面をポイントすると大震災前の水面が見られます。
 波打ち際が前庭の石垣下辺りであったことを裏付けるものとして,「日本博覧図」では黒い傷跡があるためハッキリしないが,高橋邸の正門前から浜へ下りる階段に,船の艫綱(ともづな)をかけた石の杭が今でも残っている。
   
「よこすか景観賞」受賞!
 
 高橋邸の前庭にあたる私有地が,優れた景観づくりに貢献したとして,第3回「よこすか景観賞<景観デザイン部門>」を受賞。2010年2月7日ヴェルクよこすかで開催された第15回都市景観フォーラムで表彰されました。
2010.2.8
 
 2009年末から年初にかけて,高橋邸では何やら工事が行われていた。終了して工事現場の覆いや足場が取り外されると,まばゆいばかりの白壁土蔵や漆喰瓦屋根が目に飛び込んできた。土蔵手前にあったプレハブ風の建物も撤去,その他の建物もお化粧直しされ,その一画からは,格調高い雰囲気が漂ってくる。これで,旧邸の母屋が健在だったらと返す返すも残念でならない。

 鴨居・走水地区には高橋邸以外にも,昔の建築様式を伝える建物が散在する。それらは築後相当の年数を経ているため,住む人にはなにかと不便で,維持費もかさむと思われる。建物の所有者に現状保存を求めるには限界がある。市がそれらの全てを保護することは費用の点からも無理かと思うが,取り壊されては後の祭り,文化財的価値のある建物については,早期に,保護施策を推進して貰いたいと願うのは,私だけだろうか?
   
   
   
   
   
   

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