ハグルマトモエ
(歯車巴蛾)

旧名:トモエガ(巴蛾)


チョウ目 ヤガ科
前ばね長さ:5〜6cm


 
 観音崎公園ふれあいの森を歩いていると,目の前から突然チョウ?が飛び立ち,バタバタと不器用な飛び方で,20m位先の木の葉に留まった。私は最近,老眼が進みメガネなしでは新聞も読めなくなったが,遠目は未だに健在で,20m先のチョウ?もそれなりに良く見える。 
2006.8.22
 立ち止まり,カメラをズームアップして見ると,チョウ?と思ったのは誤りで,どうやら「ガ」のようだ。前ばねに人間の目玉のような斑紋があり,全体がユーモラスな顔のようにも見える。どこかでお目にかかったことのある顔つきだが,何時,何処で出会った顔だか思い出せない。「人面蛾」発見?

 人面蛾?を脅かさないように,15m,10m,5mと少しずつ距離を縮め,その都度写真を撮りながら,最後は1m位まで接近したが,目玉は一向に動かず,飛び立つ気配もない。いろいろな角度から写真を撮ろうとしたが,私の背丈より50cm程高い場所に留まっているため,それは諦めざるを得なかった。 
 帰宅後,昆虫図鑑であれこれ調べてみたが,なかなかそれらしき「ガ」が見当たらない。後は人頼みと,時々訪問している「ガ」マニアのサイト「みんなで作る日本産蛾類図鑑」の掲示板に写真を投稿して,名前をご教示頂くことにした。

 ところが,いつもは即日,遅くとも翌日には,「ガ」マニアの先輩からご教示いただけるものが,今回は1日待てど2日待てども反応がない。諦めきれず,こんどは観音崎自然博物館へ写真を持ち込み,昆虫に詳しい瀬長研究員に教えを請うことにした。

 写真を見た瀬長研究員は,直ぐに心当たりがあったようだが,確認のためか「蛾の図鑑」をペラペラめくり,あるページの蛾の写真を指し示した。そこには,私が撮った写真と瓜二つの写真が掲載され,トモエガと名前がついていた。 
名前の由来
 
 トモエガは漢字で「巴蛾」と書く。目玉のような前ばねの斑紋を,古人は巴紋と見たようだ。トモエガの写真を改めて見直してみると,確かに巴のような形をしている。右側が右一つ巴,左側が左一つ巴になっているのも偶然かもしれないが興味深い。

 巴紋は水が渦を巻いている形を紋章化したもので,神紋として神社で多用され,神社関係者の家紋として使われていることが多いと言われる。念のため,鴨居八幡神社へ行き,本殿の屋根を正面から眺めて見ると,合計6ヶの「左三つ巴」紋を確認することができた。

左三つ巴

右三つ巴
余  談
 
 トモエガに出会ってから一週間後の朝,仏壇に線香を供えながら,何気なく脇にある飾り棚を見ると,どこかで見たような目と顔があった。トモエガを見た時に直感した目と顔だった。トモエガとは全く何の関係もないが,大きな黒い目玉と,何処かユーモラスな表情が共通している。

 目玉の主は「なんじゃもんじゃ」という山梨県の民芸品の土鈴だった。35〜36年前,南アルプスの展望台「夜叉神峠」へ,家内と初めてハイキングした時に買い求めた思い出の品だが,トモエガに出会って以来,気になっていた目玉の主が「なんじゃもんじゃ」と判り,何故かホッとした気分になった。家内にこのことを話したところ「あらそうだったかしら?」と気のない返事が返ってきた。 
 
伝説神 なんじゃもんじゃ
(土鈴の解説文から引用)
 
 むかし,京都の帝のもとから不老長寿の薬草を求めて,高貴な方がこの富士の麓を訪れました。御使が地元の漁師の操る小舟で湖を渡っておりますと,俄に水面が揺れて,目の下六尺もある金色の大魚が現れ,高々と跳ね上がると弧を画いて水中に没しました。

 御使はその見事な姿にすっかり驚かれて「あれは何だ」とききますと,漁師は得意になって「永い年月,この湖に住む主でございます。」と答えました。ところが,その答えが終わらぬうちに,また水面が揺れ,盛り上がり、沸き立ち,奈落を思わせる水音と共に巨大な入道が現れ出たのです。

 小舟は今にも覆える,と思うほどに揺れ動きましたので,一同は生きた心地もなく「湖水大明神」と唱えて舟底にひれ伏しました。これこそ,湖の主,湖水神だったのです。大入道は、ランランと光る大目玉でにらんでおりましたが,別に何事もなく水中に没し去りました。

 「漁師,あれは何者じゃ」御使は冬の枯葉のように震えて尋ねましたが,つい今しがた金色の大魚を主だと答えた漁師は答えに窮してしまい,震える声で「何というもんじゃか」と口ごもりますと,御使は感にたえぬ様子で「なんじゃもんじゃと申すものか,誠に誠にその名に相応しき怪神」と仰せられました。

 御使は京の都に帰られると,早速,帝に土産話をいたましたので,なんじゃもんじゃは湖水の神,干天に雨を降らせる水の神として,永い間,人々の信仰を集めたということです。
なんじゃもんじゃに再会
 
 花の広場の片隅で,ようやく咲き始めたキンミズヒキの写真を撮っていると,足下から何かがバタバタ飛び立った。直ぐに近くの草むらに着地したので,近づいてみるとトモエガだった。

 ガの仲間の多くは夜行性で,昼間見かけることは少ないが,トモエガは昼も行動する習性があるらしい。昨年も今年も,陽差しが強い昼下がりに出会った。トモエガは羽の紋様がなんとなくユーモラスで,思わず「なんじゃもんじゃ」と言いたくなるような雰囲気がある。
2007.9.3
 

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