春の七草

 我が家では例年正月七日の朝,昔ながらの慣習に従い七草粥を食べることにしている。春の七草は平安時代に四辻善成左大臣が詠んだと言われる「芹なずな 御形はこべら 仏の座 すずなすずしろ これぞ七草」という和歌でご存知の方も多いと思うが,今時,都市近郊でこれらの植物を採集することは難しい。

 最近では八百屋さんやスーパーで「春の七草」がパックで売られているので,家内は毎年これを買ってくる。七草粥を作る前,398円で買ったというパックを見せて貰うと,ご覧のように可愛らしい大根や蕪が七種類入っていた。 
2005.1.7
 
春の七草
和歌の名 標準和名
セリ セリ
ナズナ ナズナ 薺(ぺんぺん草)
ゴギョウ 御形 ハハコグサ 母子草
ハコベラ 繁縷 ハコベ 繁縷
ホトケノザ 仏の座 コオニタビラコ 小鬼田平子
スズナ カブ
スズシロ 蘿蔔・清白 ダイコン 大根
 正月七日,春の七草で七草粥を作り食べるのは,野草の強い生命力を食し,一年の無病息災を祈る「人日の節句」と呼ばれる日本古来の伝統行事。朝食に七草粥をいただいたところ,年末年始にかけ,暴飲暴食気味で疲れた胃を,優しく癒してくれるような暖かみを感じた。これも先人の知恵というのだろう。
  
 七草粥を食べ終わる頃になって,私は春の七草を観音崎で探してみることを思いついた。幸い小春日和の上天気,家内に話を持ちかけてみると,珍しく二つ返事が返ってきた。スズナ(蕪)とスズシロ(大根)は観音崎で自生していないが,その他はそれぞれ群生している場所を知っている。

 ところがいざ現地へ行ってみると,それらの植物は冬の寒さに耐えるためロゼットと呼ばれる状態だったり,花も咲いていない。そのため他の植物との見分けがなかなか難しい。観音崎を2時間ほどあちこち歩きながら,セリ(芹)・ナズナ(ぺんぺん草)・ゴギョウ(ハハコグサ)・ハコベラ(ハコベ)はなんとか見つけ出したが,ホトケノザ(コオニタビラコ)はついに見つけ出すことができなかった。止むを得ず,コオニタビラコによく似たヤブタビラコで代用させていただくことにした。

 観音崎中を探し回り,ようやく見つけ出したそれらの植物が,七草粥に入れて食べるにはあまりにも貧弱なのでガッカリしたが,その理由について漠然と考えているうちに,この行事が旧暦で行われていたことに気づいた。旧暦の1月7日は新暦で何日に当たるのか?調べてみると2005年は2月15日であることが判明した。2月15日まではまだ1ヶ月以上ある。その頃になれば,これらの植物も少し生長している筈だ。古人はそれを食したのだろう。 
 
 
セリ(芹)
 
セリ科   多年草   草丈:20〜80cm
  

2005.1.7
 

2007.8.7
  



 
ナズナ(薺)
別名:ぺんぺん草
 
アブラナ科   越年草   草丈:10〜50cm
   

2005.1.7
 

2003.2.19
  



 
ゴギョウ(御形) 
和名:ハハコグサ(母子草)
 
キク科   越年草   草丈:15〜40cm
   

2005.1.7
 

2002.4.14
  



 
ハコベラ(繁縷)
和名:ハコベ
 
ナデシコ科   越年草   草丈:10〜20cm
  

2005.1.7
  

2017.3.1
       



 
ホトケノザ(仏の座)
和名:コオニタビラコ(小鬼田平子)
  
キク科   越年草   草丈:5〜20cm
   

※写真はヤブタビラコ
 
同名のホトケノザ(春の七草に非ず)
  



  
スズナ(菘)
和名:カブ(蕪)
  
アブラナ科
  

我が家のプランター   2005.1.7 
  



 
スズシロ(蘿蔔・清白)
和名:ダイコン(大根)
  
アブラナ科
  

走水の畑  2005.1.11
  



余     談
 
 50数年前,私が中学生の頃,今は亡き祖母が「七草ばやし」を謡いながら七草粥を作っていた記憶がある。しかしながら,歌詞はほとんど憶えていない。そこで,来年米寿を迎える母に尋ねてみた。母は最近,物忘れがひどくなったが,何故か昔のことは良く憶えている。特に私にとっては都合の悪いことを,数多く憶えているのには閉口する。

 その母の記憶では“七草なずな 唐土の鳥が 飛ばないうちに ストトントン”と繰り返し唱えながら,祖母は春の七草をまな板の上で刻んでいたと教えてくれた。

 念のため「七草ばやし」をキーワードにウエブ検索したところ”七草なずな 唐土の鳥が 日本の土地に 渡らぬ先に …トントンバタリ トンバタリ” という文句が目についた。東京・大森生まれの母の記憶と若干異なるが,地方によって多少の違いがあると思われる。

 いずれにしても,ハウス栽培や輸入品の野菜が幅をきかし,季節感が失われてしまった昨今,せめて七草粥の習慣は,次世代まで受け継がれて欲しい行事の一つである。

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